相棒 伊丹の見合い2 彼女は尾行されている、伊丹、驚く
コンビニ強盗、立て籠もり事件というのは近頃では決して珍しくはない、問題は場所だ、署が近いので警官、刑事達が使うこともある。
そんな場所で事件が起きたのだ。
駆けつけた警官達の緊張と焦り、それだけではない、周りの一般市民達は何事かと集まってくるのだ、人の数も増えてくる。
「車を用意しろ、金もだ」
逆らうなといいたげに女の左腕を掴んでいる。
コンビニの入り口、開いたドアの前で男は叫んでいる、帽子を被り口元をマスクで隠しているが、それだけても表情はわかる。
つまり犯人の特定ができるのだ、逃げ切れると思っているのか、無謀すぎないかと思っていると、一人の刑事が近寄ってくる。
「あいつ、川田です」
「なんだ、知ってるのか」
三浦の言葉に刑事が頷いた、ヤクザとつるんでいるが、最近になって薬の売買に手を出して問題を起こしたという。
「本人も薬やってるんじゃないかって、それで連中からも」
「だからって、こんな事件を、くそっ」
伊丹は視線を犯人と人質に向けた、男はわざとらしくナイフをこちらに見せつけている、こちらに対する威嚇だろうか。
時間稼ぎは通用しないだろう、犯人の怒声は大きくなっている、苛立ちを隠そうとしない様子に伊丹はまずいと感じた。
このとき、予想もしない出来事が起きた。
開いたドアから飛び出すように人が出てきたのだ。
その姿に、周りの人間達は唖然とした、捜査一課の亀山薫だ。
伊丹は突進した、ところが、それと同時に銃声の音が響いた。
犯人は拳銃を持っていたのだ、それも素人の作ったお粗末と言って良いほどの改造銃だ、弾は出なかったが暴発した。
「てめえのせいだ、彼女の怪我は」
殴りかかるような勢いで伊丹はカメ野郎と叫んだ。
伊丹の怒る様子に驚きながら女は助かったんですからと言葉をかけた、突然、現れた亀山は犯人は驚いたのだろう。
「でも驚きました、店の奥から現れたから」
「裏口からですよ」
はははと笑う亀山に女は不思議そうな顔になった。
「どうかしましたか」
右京が尋ねると少し不思議そうに女は呟いた。
「気になることがあります」
翌日、コンビニで買った弁当を食べていた薫は手を止めた。
昨日の事件のことでと右京が言いかけたときだ。
「特命の、お電話です」
女性職員が入ってきた。
昼食をすませた伊丹は一息つこうと署内の自販機の前で珈琲を飲もうとした、ところが、財布から取り出そうとした硬貨が落ちてしまった、ばらばらとだ、ついてないな。
屈み込んで落ちた硬貨を拾うと、はいと自分の目の間に百円玉を持った女性がいた。
すみませんと言いかけて伊丹は驚いた。
「美夜さん」
どうして、ここにと尋ねると眼鏡をかけた刑事、右京に来たのだという。
紅茶を勧められて、少しほっとしたように女は口を開いた。
「もしかしたらと思ったんです、でも」
警察に、こんなことを言ってもいいのだろうかという遠慮がちな言葉に右京がどんなことでも構いませんというと亀山も、そうですよ後押しをする。
右京の言葉に気のせいかもしれないんですと言いかけて、誰かにつけられているようなと切り出した。
亀山が驚いたように、だが言葉の代わりに右京を見た。
「昨日、友人と食事をして遅くなったのでアパートに泊まっていけばと言われたんです、でも、そのとき友人が何度か振り返って、彼女は猫を飼っているんです、その夜、落ち着きがないというか、玄関の周りを」
亀山が彼女を自宅まで送って行くと右京は伊丹に声をかけた、話がありますと。
「先日の件ですが、川田はヤクザからも逃げていたことは知っていますか」
頷く伊丹に右京は言葉を続けた、彼女が店内に誰も居なかったかと亀山君に尋ねたんです。
その言葉に伊丹は顔を強ばらせた。
「その可能性、ないとはいえません、川田の動向を探っていた、もしくは始末しろと言われていたら、事件の仔細は公にはなっていません」
カメは裏口から店内に入った、そのとき人はいなかった、いや、いたかもしれない、だが、彼女は亀山に聞いたのだ。
姿を見た訳ではない、けれど声、音を聞いた、もしくは気配を感じたのかもしれない。
最初は気のせいかもしれないと思っていた、だが、友人と猫の様子におかしいと思って来たのではないか、警察に。
あの店、コンビニはこの辺りではもかなり大きな店舗だ、トイレ、倉庫に続く通路、死角、隠れる場所は。
(あるだろう、確認はしたのかっっ)
もし、誰がか隠れていたとしたら。
そのとき、右京のスマホが鳴った。
「右京さんっっ、つけられてました、男です」
亀山の声がはっきりと聞こえた。
「亀山君、彼女を連れて戻ってください、アパートに一人は」
「わかってます、あれはシロウトじゃ」
「ヤクザ、ですね」
右京の言葉に伊丹は飛び出した。
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