伊丹は助けに走る、トイレに向かって
ヤクザという言葉に思わず部屋を飛び出した伊丹だが我に返り、はっとした、カメは今どこにいるんだと。
尾行されているとわかった時点で彼女の自宅へ向かうとも思えない、スマホを取り出して連絡しようとしたとき、着信音が鳴った。
車の中で苛立ちと焦りが交差する、そんな自分に隣の三浦が声をかける、だが返事を返すことができない、聞こえなかった訳ではない、代わりに頷いた。
そんな様子に苛ついているなと三浦は、右京の言葉を思い出した。
詳しい理由はわからない、だが、追われているということは彼女は何か都合の悪いことを見た、いや、聞いたのかもしれない。
最近は、ただのストーカーでもたちが悪い、店で買ったナイフや包丁で殺人など珍しくない。
そして裁判になると精神が参ったふりをして罪を逃れようとする、だが、彼女を追っている相手は素人ではない、かもしれないのだ。
車に乗り込んですぐにスマホが鳴ると伊丹は怒鳴った。
だが予想に反して聞こえてきたのは彼女の声だ。
「い、伊丹さんっ」
叫ぶように名前を呼ばれて伊丹は一瞬フリーズしした。
「い、今、トイレの 公園、亀山さんが出るな」
慌てているのだろう、声が震えている。
怪我をしていないか、大丈夫ですか、いや、そんなことを聞きたいんじゃない、不意に伊丹は代われと言われて隣を見た、三浦がスマホで何かを調べている。
「落ち着いてください、どこの公園です、場所は」
そうだ、ここのとき伊丹は、はっとした、公園といってもこの近所には複数ある。
「多目的、わかりました、そこから出ないでください、すぐに行きます」
スマホを切った三浦だが、その表情は硬い。
「一人じゃないかもしれない」
その言葉に伊丹の顔が歪んだ。
「気を引き締めろ、相手は」
三浦の言葉は最後まで続かなかった、車が止まったからだ。
公園といっても広い、朝は散歩だけでなく、ジョギングする人も多い場所だ、幸いなのは今が昼間で人はあまりいないということだろうか。
「いつでも撃てる準備はしておけ」
三浦の言葉に伊丹は周りを見回した、そのとき、少し離れた場所に立っている男の姿を見つけた、男が不意に顔をそらす。
怪しすぎだろっっ、男が逃げるような動きに追いかけようとした。
だが、伊丹っと叫ぶ三浦の声に、はっとした、あいつは芹沢に任せる。
トイレ、どこだ、周りを見わたして見つけたとき用心しながら近寄った、そのとき。
「おい、開けろ、ぶっ殺すぞ」
「逃げられると思うな」
男の声に続いてがんっ、がんっっと叩きつけるような音が聞こえた、ドアを壊そうとしているようだ。
いつでも撃てるように、伊丹は声をあげた。
二人の男がトイレのドアを蹴り飛ばしていた、自分が現れたことに男達は驚いたようだ。
動くな、手を上げろ、刑事ドラマでお決まりの台詞で二人の動きを止めるが、このとき伊丹は思った、カメの奴は。
「くそっ,刑事っ」
「一人じゃねぇか」
二人の男に向かって銃を構える、そのとき。
「油断するなっっ」
男の吐き捨てるような台詞と自分を叱咤する台詞が聞こえた、だが、同時に銃声もだ。
暴発したのは男達の銃だ、改造銃は最近になって色々な物が出回るようになった、シロウトがネットで作り方を見て作るのだ、一見銃とは分からないモノもある。
それでも軽い致命傷を与えるには十分なのだから厄介だ。
右腕をかすっただけだが伊丹はたいしたことはないと翌日から復職した。
そして、亀山だが、怪我はしていなかった、ただ、昏倒して気を失っていた、トイレの中、つまり彼女と二人でトイレに隠れていたのだ。
もし、自分達が駆けつけるのが遅かったらどうなっていたかわかない。
いつもの自分、伊丹なら馬鹿野郎と怒鳴りつけていたもしれないが、そうしなかったのは事態が予想していたものとは違って、かなり大きなことになっていたことを右京から知らされたからだ。
後日、右京に呼ばれた伊丹、三浦、芹沢、そして亀山は右京に原因はこれですよとシガレットケースを見せられた。
「彼女は、これをコンビニで、そして持ち主に渡そうとしたんですが」
嫌な予感がすると伊丹が顔をしかめた、すると三浦が呟いた。
「麻薬、ですか」
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