好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

偶然の出会い、ショートドラマに遅れたアイドルと

 最初は人脈が広がるかもしれないという下心もあった。
 だが、そのせいで色々と誘われる事が増えてきた。
 スポンサーや同業相手なら断ることもできる、だが、自分と違う職種相手の人間、若者だと簡単にはいかない。
 自分の好奇心が刺激され、話してみたいというときはいい。
 だが、ここ最近は忙しさが勝ちすぎてしまった。
 少し休みたい、ゆっくりしたい、そんなことを思いながらエレベーターに向かうが、入り口付近に人が大勢いるのを見ると反対方向に背を向けた、少し遠回りになるが階段を使おうと思ったのだ。


 遠回りになるなと思いながら、ドアを開けて降りようとした、そのとき、池神は思わず手すりを掴んだ。
 なんだ、今のは人の声、驚いて階段から身を乗り出すようにして覗き込んだ、下の方から聞こえてきたのだ。


 座りこんでというよりは倒れたのだろう、大丈夫ですかと声をかけた。
 相手は女性だが、立ち上がろうとした途端、体がふらつき、再び床に座りこんでしまった。
 無理しないでと池神は思わず声をかけた。
 手を貸すと、ゆっくりと立ち上がる、だが、どこか心許ない。
 最初、自分よりも高齢と思ったのは髪の色だ、白髪交じりというより、殆ど白髪と思ったからだ。
 だが、近くで見ると、とても薄い茶色だ。
 顔を見て驚いた高齢者でなかった、アイドル、いや、若手の女優だろうかと思いながら掴まってと声をかける。
 足を挫いた、捻ったのかもしれない。
 横顔をちらりと見る、痛むのか苦しそうな顔だ。
 病院へ行ったほうがいいのではと思ってしまった。


 廊下に出て、建物の外まであと少しというとき、長身の美女が近づいてきた。
 階段を踏み外して、滑り落ちてしまったと説明する若い女性に美女は、頷きながら隣にいる男、池神を見た。
 その顔、表情が素早く変わった。
 池神さんと呼ばれ、目の前の女性は芸能関係、それとも女優だろうか、そんな事を思ったとき、相手が小さな声で呟いた。
 聞き違いかと思ったが、相手がにっこりと笑った瞬間、はっとした。
 二人の女性の後ろ姿を見送り、池神は呆然とした。
 女性が呟いたのは自分の昔の呼び名だ、それも学生時代の。
 あの頃の自分は女生徒とは仲が良くなかった、挨拶ぐらいはするのだ。
 しかし、一人でいることが多く、男同士で仲良く遊ぶと言うこともあまりなしなかった。
 勉強にしか興味がない、変わり者などと噂されていたらしいが、それを知ったのは学校を出た後だ。


 「まさか、沢木良二、なのか」
 独り言のように呟いた後、はっとした。
 隣にいた若い女性の顔を思い出したのだ。


  「沢木が、本当なのか」
 驚いたように名前を呟いた後、村沢は黙り込んだ、その表情に内心、仲が悪かったのかと思いながらも聞かずにはいられなかった。
 「なんだって、あの男、いや女になってたって」
 今は珍しくないからな、少なくとも昔よりは、その言葉に村沢は頷きながらも複雑な表情だ。
 「あの沢木が女、しかも美人だと」
 想像できないといいたげな顔だ。
 「覚えてるか沢木、あいつ、凄く太っていた、相撲、いや、ラグビーだったか、勧誘されてたくらいだ」 
 知らなかったと池神は驚いたようだ、どちらも、体力的に激しいスポーツ、競技だ。
 ただ、太っているというだけで勧誘されるなんなてことはないだろう。
 「格闘技、やってたとか、絡んできた酔っ払いをアッパーで撃沈させたって噂があったが」
 池神は驚いた、学生の頃の顔は、どんな体型だったかと思い出そうとしたが無理だった、かわりに少し前に出会った美女の姿を思い出してしまった。
 仲が良かったのかと池神が尋ねる、するとわずかな沈黙の後村沢はいいやと首を振った。
 「クラスの中でも親しくしてた奴はあまりいなかったと思う、男女問わずだ、授業にはまじめに出てたみたいだが」
 「そうか」
 会話は、そこでぷつりと途切れてしまった。


いくら流行だからって、こういうのは、いや、自分には無理だろう、一歩間違えたらセクハラになりかねないぞ、やはり断ろうと思った。 だが、予想に反して周りは乗り気だった。
 同性、異性を問わず、禁断、年の差などの恋愛ドラマは最近になって脚光を浴びるようになった、人気が出てきたのだ。
 元は動画配信だが、これがテレビのニュースでも取り上げられて話題になったのだ。
 三十分、一時間などのテレビドラマと違って数分のショートショートはスマホやパソコンで気軽に見れることができるからだろう。
 最初は素人が作った動画、ドラマだったが、回数を重ねるごとにクオリティが上がってきた。
 そして素人同然の出演者も変わってきた。


 あれっ、この人、芸人、お笑いの人だよ。
 こんな演技ができるんだ。
 また、出てくれないかな。
 ねえっ、この間の動画に出てた人、誰だろ、気になる。
 芸能、お笑いじゃない、ももしかしてスタッフとか。
 えーっ、気になる、誰か知らないかな。


 動画配信の人気は少しずつアクセスが伸びてくる、それをテレビでやるというは無理があるのではと、そんな話が出たのは当然だ。
 だが、中にはやってみてもいいんじゃないか、そんな意見も出ていた。


 小川はため息をついた、四十はとうに過ぎ、そろそろ五十に手が届く男は、今まで仕事ならどんなことでも、それこそ好き嫌いせずに何でもやってきた。
 この世界に入ったばかりの頃は芸能人の付き添い、アシスタントが多かったが、そこで仕事を見ていくうちに役者、声優の仕事もやってみないかと声をかけられた。
 弟子入りしたこともあって洋画の吹き替えだでなく、最近はアニメの悪役も増えてきたのは嬉しいと思えた。
 だが、今回の仕事は、正直、無理では思っていた、
 何故なら相手役がアイドルの里奈、なのだ。
 以前、コマーシャルやドラマで見たことがある、だが、直接会ったことも話をしたこともない。
 確か二十歳を少し過ぎたくらいか、若い十代のアイドルともなると顔の見分けなどつかない。
 そんな相手と恋愛未満の二人の関係を数分のショートで、いや、無理だ。
 断ろうと思った矢先、スマホが鳴った。


 スタジオに来てください、監督が乗り気で今すぐ撮ります。
 マネージャーの言葉に驚いて時計を見ると朝の十時、昨夜のラジオ番組で盛り上がって飲み過ぎたか。
 だが、現場に行くと。

 「すみません、里奈が少し遅れてくるそうで」


 彼女のマネージャーが平身低位、頭を下げてくる。
 無理もないと思った、自分はいい、これで撮影、そのものがなくなるかもと思ったからだ、だが。
 監督だ、何故と思ってしまう、引退したいって言ってたんじゃなかったのか。
 スタジオに来るまで知らなかった、いや、確認したときは別の監督だったはずだ。
 「いや、面白そうなことやってると思ってな」
 しかし、相手役が遅れるとあっては、それに、この監督は時間に厳しかった、それで撮影、やめたなんて言い出すこともあったはずだ。
 どうなる、周りも皆、監督の機嫌にピリピリしている。
 そのとき、現場に一人の男が駆け込んできた。
 一人の女性を連れだってだ。


 親子、恋人とか、気になるぜ。
 どういう関係なの、でも女の人、大事に思っているのわかるよ。
 男の方は戸惑っているのかな、なんだか見てるこっちがたまらないよ。
 ねえっ、これ撮ってる人、監督、あの人。
 凄い映画、撮る人でしょ、ヤクザとか。
  
 最初は何かのCMなのか、T数分、最初、お試しということで一週間、放送された、それはしばらくして動画サイトにupされた。  
 年上の男性と若い女性が一緒に歩くだけのものだった。
 男の横顔がちらりと映る、だが、それに反して女の顔は。
 ドラマの始まり、それとも終わりなのか、どちらもとれるような、
予感させるような映像だ。


 その日、仕事が終わり、帰ろうとしていたときだ、若い役者に声をかけられて男は驚いた。
 青年はスマホを取り出して、これですと映像を見せた。
 ああ、これか思いながら思わず頷く、別に隠すことではない。
 「これ小川さんだって、本当ですか」
 不思議なカップルをイメージということで男よりも少し女の方が背が高い方が良い、それだけでスタジオ内で見つけた女性を引っ張ってきたのだ。
 「最初、相手役が里奈だって本当ですか」
 「あっ、ああ、まあ色々とあってね」
 あの監督、相手役の遅刻、こういうのはよくあること、じゃないなと思いながら小川は若い役者を見た。
 「このショートドラマ、監督も役者も色々な人が出て映画化の話もあるけど、それはやめてほしいって」
 「そう、なのか」
 「これに出たがっている人が、その」
 返事に困ったのは里奈という名前が出てきたからだ。
 「実は彼女のマネージャーが小川さんから、あの監督に」
 「いや、それは」
 自分の表情から察したのかもしれない、青年はそうですよねと困惑の表情になった。