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オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

男にはわからない、擬態妊娠、腹の中にいるものが何なのか

 夫は浮気をしているのかもしれない、それは予感だった、だが、確たる証拠が有るわけでもない。
 それに、今、自分は妊娠しているのだ、大事な時期だ何かあってはいけない。
 そう考えると問いつめる事などできなかった。
 このまましばらくは様子を見ておこうと思ったのだ。
 だが、人生は何があるかわからない、何があってもいいようにと気持ちと準備だけはしておこうと思った。


 妻は鈍感な女だ、自分が浮気しているなど思いもしない、いや、気づいてさえいないだろうと男は思った。
 それが傲慢、ただの自意識過剰だなどと、男は思いもしなかった、だから浮気の数と相手が増えていったとしても仕方のないことかもしれなかった。


あなたの旦那さん、浮気しているわよと湯・しんから言われた時、妻である女性は驚いた。
 だが、予感はあったのだろう、そうと頷くと、子供ができたっていうのにと小さく頷いた。
 女は妊娠し、子供ができると母親になる、いや、ならなければいけない。
 しかし、男には、実感も覚悟もないのだろう。
 だから浮気など、簡単にできるのかもしれない。
 腹が立つし、怒りを感じないといえば嘘になる。
 だが、口のうまい人だ、自分は言い訳され、許してくれと言われたら丸め込まれてしまいそうな気がする。
 正直、面倒だと思ってしまった。
 何がと聞かれたら一言だ、夫がと答えてしまうだろう自分はと思ってしまった。
 相手は会社内、それとも飲み屋、最近、よくある出会い系のアプリだろうか。
 どちらにしてもばれたら面倒なことになるというのがわからないのだろうか。
 会社で噂になったら、近所の人に知られたら、恥をかくだけですむだろうか。
 仕方のない生き物だ、男は、いや、自分の夫は。
 ふと、台所の隅のごみ箱が目に入った。
 あと少しで一杯になる、明日はゴミの日だったと思いだす。
 袋に入れて集荷所に持って行く、だが、それすらも自分の仕事だ。
 以前、夫に頼んだことがあった、やってくれたのは最初の数回、あとは。
 「忙しくて忘れてた」
 などと言っていたが、あれはわざとではないかと思っていた。


 「どうしたの」
 友人の言葉に、はっと我に返った。
 「もしかして、捨てたくなった」
 何をとは聞かなかった、だが妻である彼女は笑ってしまった。
 「ゴミみたいにはいかないでしょ」
 袋に入れて捨てる、そんな簡単にはいかないのだ。
 「だったら、いいこと教えてあげましょうか」
 


 自分の携帯に入ってきたのは、ある大手会社からの当選したという連絡だった。
 何かの懸賞に応募したのだろうか、自分には心当たりがない、もしかして妻がと思ったが、貴方が直接、懸賞に応募されていますと言われて男は話を聞くことにした。


 昨今では子供の犯罪、育児放棄などの問題が増えている、母親桃だが、男性が自分の子供に対して暴力をふるい、死なせてしまったという悲惨な事件もある。


 男は女のようにはすぐには親になれない、いや、現実が見えていないのだ。
 説明を受けて男は、そんな事はないと反論した。
 少なくとも自分はそうではないと言葉を返す。
 すると数人の男性たちは、ですから、この体験に参加して欲しいのですと頭を下げた。
 妊婦と同じように腹に胎児と同じ重さのものを装着して出産を疑似体験するのだという。
 その過程はカメラで動画サイトにupされるのだという。
 出産まで体験した後、報酬として多額の謝礼が払われるのだが、金額を聞いて男は驚いた。
 妻にも相談しなくてはと言いながらも、気持ちは半分、いや、完全に傾いていた。


 妻に相談すると大丈夫なのと心配されてまった。
 だが、妊婦体験をすることによって、それが世の中の男性、父親となる男に少しでも参考になるならと言うと妻は仕方ないといわんばかりに肩を落とした。


 後日、テレビカメラとスタッフに囲まれた男は態度と同じ重さのリュックを腹に装着された。
 撮影が終わるまでは外す事はできないという、つまり十ヶ月近くだ。
 通勤、会社でも外す事はできないと言われて最初は驚いた。
 大丈夫だと思っていた、だが、それは最初の数日だった。
 一週間、半月もたつと無理ではないかという不安を覚えたのはトイレ、風呂に入っているときでさえ、腹の物体をつけたままだからだ。
 軽く屈み込むという動きでさえ苦しいのだ、最初はトイレに失敗してしまった。
 大人用の紙おむつを提案されたときは拒否した、だが、会社内で失敗したこともあり妻に頼んで大人用の紙おむつを用意して貰ったのだ。
 その身体では無理でしょうと浮気相手は去っていった、だが、中にはそうでない女もいた。


 しかもリュックは数日ごとに重くなる、胎児と同じ重さにする為にスタッフが数日ごとにやってきてセットするのだ。


 たった一人の胎児が腹の中にいるというだけで、こんなに苦しいのか、もし双子なら、自分は男だが、腹の中に双子がいたら耐えられそうにないと思ってしまった。
 最近は食欲もない。


 「何か薬でも飲まされているんじゃない」
 久しぶりに会った浮気相手の言葉に男は驚いた。
 もしかしてと思ってしまう、だが、最近の妻は自分に対して素っ気ない、いや、なさずきるのだ。
 だが、これには理由がある、流産したからだ。
 妊娠し、日々、変わっていく体調、夫のサポートもしなければいけない、だが、ある日、街中で倒れてしまった、救急車で運ばれたらしい。
 「ごめんなさい、せっかく授かった、赤ちゃんなのに」
 わずかに膨らんでいた腹がなくなって、すっきりとした姿で帰ってきた妻の姿を見て夫である男は羨ましい、いや、妬みさえ感じてしまった。
 その夜、夫は夕食後、胃のムカつきを感じて吐いてしまった。


 病院に行ったとき、思ったのは腹のリュックをはずすことができると思ってほっとした。
 ところが、医者は話を聞いて一言、つわりですねと答えた。
 男は驚いた、そんな筈はない、ちゃんと調べて下さい、自分がつわりなどあり得ない、男なのに。
 すると医者は軽く首を振り、男性にもあるんですよと答えた。
 あまり知られていませんがと言葉を続けた。
 「大変でしょう」
 と言葉が続く。
 「あなたは大丈夫そうに見えますが」
 海外ではと続く言葉に男の顔色が少しずつ変わりはじめた。
 この実験は数人の男性を対象に行われたが、長くは続かなかったらしい。 
 「人種、考え方の違いもあるんでしょうね」


 その言葉に男は返事ができなかった。
 膨らんでいるものは胎児ではない、ただの重りだ、それなのに。
 腹に、そっと手を伸ばす。


 どくん、動いた気がした。