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オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

医師と看護婦は秘密と事情は話さない 3

彼女を引き取ると決めたとき、どうせなら正式にと思ったのだが、医師から、それはお勧めできないと反対されてしまった。
 「お気持ちはわかります、ですが、あなたは彼女の友人です」
 親族、亡くなった彼女の兄弟などの関係なら簡単に手続きできたのかと聞くと医師は首を振った。
 「今回、彼女は昏睡状態から目覚めました、検査の結果、体、脳にも異常など見られません、ですが、医者の自分としては大丈夫と断言はできません、ショックやトラブルで突然死ということだってあり得るのです」
 口から出そうになった言葉が否定、それとも叫びなのかわからなかった。
 「事前に状態を話しておくべきでした、相手の男は殴った、手が当たっただけだなどと言ってますが」
 違うんですか、自分の言葉に医師は首を振った。
 「大型のカッターナイフを持っていました、血液反応が出たのですが、動物のものでした」
 脅すつもりだったにしてもたちが悪いという医師の言葉に女は無言だった。


 娘だと言っていたけど、本当のところはわからないという医師の言葉を思い出す、だが、病室で彼女を見た沢木は言葉を失った。
 まるで時間か逆戻りしたような、いや、言葉では説明できない感覚を覚えたのだ。
 学生時代の記憶というのはおぼろげだ、というのも中退した沢木自身、よい思い出がなかったからだ。
 それでもわずかに覚えていたこともある。


 子供の歳は幾つだろう、幼いだろうか、十代ぐらいかもしれないと思ったが、見た瞬間、違うと思ってしまった。
 肩にかかるほどの髪の色は色素がひどく薄く、白髪が半分ほど入り交じっている、生まれつき、いや、昏睡状態で眠っていたのだ、その間に体調の変化もあったのかもしれない。
 お母さん、木桜春雨さんの知り合いですと自己紹介すると桜さんのと不思議そうな顔で見る。
 目の色も髪と同じくらい薄い。
 どうして自分が病院のベットで眠っているのか、それも覚えていない、いや、事故の記憶、そのものがないようだ
 血縁関係がわからないと言われていたが、だが。
 「あなたのことを、頼まれたの」
 不思議そうに自分を見る顔、その目が似ていると昔を思い出してしまった。


 その日、沢木良子は届いた書類を見て苦虫をかみつぶしたような表情になった。
 池神征二、村沢武史、この二人の名前が出てくるとは驚きだった。
 弁護士を頼もうとしていた池神に頼んでだ。
 彼女が娘の為に残した財産をとられないように必死だったのだろう
 ところが、財産を知って驚いた、高額なら親族同士での争いというのは珍しくはない。
 しかし、それは微々たる金額だ、普通のアパートなら一年、いや半年、暮らせるかどうかだ。 
 しかも、引き出せないのだ。


 「実は亡くなった木桜さんは事故を知りません、医師が知らせないほうがいいと言って」
 池神と村沢に接触した看護婦を探すのは簡単な事ではなかった、辞めていたのだ。
 娘のことを詳しく聞きたいというと看護婦も困った顔をした。
 「老婦人の付き添いと来ることがありました、でも彼女も話すのが苦しいのか、会話は殆どなくて」
 「そうですか、春雨さんの知りあいとかは見舞いに」
 「一度、親族の方が、でも良好な関係には、医師は接近禁止令を出しました、先生は事情を知っていたと思いますが、多分、話須子とはないと思います、沢木さん」
 看護婦は話せないこともあるんですと言って頭を下げた。
 「私は看護師を辞めました、先生から言われたこともあります、ですが、退職金とは別に貰ったんです、先生が、これは彼女からだと」
 自分だけではない、先生も辞められましたといいう言葉に沢木は無言だった。
 言葉
 「私の、大事な家族として暮らしていくつもりです」
 すると看護婦は封筒を差し出した、黄ばんだという言葉で言い表せないくらい古いものだと一目でわかる。
 受け取った沢木は迷ったが、燃やしましょうと呟いた。


 決して大きくはない二階建てのアパートだ、築年数も古く、元々空き部屋が多い、だが風呂とトイレはついている。
 この際、いや将来を見据えて部屋だけではない、アパートを買ってしまうのもありだと沢木は考えた。 
 住居、仕事の為、一階の壁をぶち抜いて改装しよう、その為にネットでデザイン、建築業の人間を募集した。
 インターネット回線も整えてと色々なことを考えた。
 学生時代、頭の中で考えていたことを形にしようと。


 「りょうさーん」
 ドアをノックする音に目が覚める。
 ああ、朝ご飯ができたのかと思ってベッドから起き上がり、部屋を出ると色々な人の声が聞こえてきた。
 今日は新しい住人が二人やってくることになっている、自分が立ち上げたブランドのデザイナーだ。
 二人とも若い、見つけたのは街中だ、それも日本ではない、海外だ。 着ている服のデザイン、色使いが気になって思わず声をかけたのだ すると日本から旅行に来ているのだという。
 服を作らないかと声をかけたときは驚かれた。
 それというのも専門学校を出ているわけではない、本やネットで見て、独学で服を作っているのだという。
 家は田舎で専門学校はない、いや、あっても都会、遠い場所だという。
 服飾専門、特殊な学校となれば確かにと思ってしまう。
 服が好き、自分の考えたデザインで、好きなものを作りたいと思っても現実にと思えば簡単なことではない。
 だが、諦めたくないという、その気持ちはわかる。
 自分も、だから、多少、強引だと思いながらも引き取ることにしたのだ。
彼女を。


 「さて、起きたかな」
 服を着替え、顔を洗い、起腰に行こうとドアを開けると廊下から声がした。
 おはようと言われて沢木も答える。
 「おはよー、ハル」