好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

写真は削除されました、これは警告です。

 自販機のコーヒーを飲みながら気持ちを落ち着けようとすると、後輩の柴村は先輩と興奮気味に声をかけた。
 「あれ、なんだったんですかね」
 佐伯は答えることができなかった。
 まずいことをした最初は玄関からのつもりだったのに、だが、気配を感じて庭に向かって、こっそりと、つまりは覗きをしてしまったことになる。
 最初、視界に入ったのは後ろ姿だっ、少し寒いくらいだ、それなのにビニールプールを庭に出しているなんてと正直、驚いた。
 後ろ姿しか見えないが、髪は銀色、プラチナブロンドか、ウィッグかと思った、正面から見たいと思ったときだ。 
 「あなた、誰」
 背後から女の声がした、そのとき、プールに入っていた相手が振り返った。
 その姿に悲鳴があがった。
 叫びが自分なのか、それとも見られた相手、どちらなのか、佐伯にはわからない、ただ、逃げるぞと背を向けて走り出した。


 「先輩、凄いですよ」
 後輩の芝村はポケット中からスマホをとりだした、ばっちりですといいながら画面を見せる。
 おまえ、よく、あの瞬間にと佐伯は感心しながら画面を見た、そこには振り返った相手が映っている、少しぶれているのは仕方がないだろう、だが。
 「これメイクでしょうか、頬のところ、痣みたいに見えるけど、怪我、もしかして」
 その言葉に佐伯の顔が固まった、いや、緊張した顔つきになったといったらいいだろう。
 「だとしたら、もう一度」
 「違ってたらどうする」
 「そ、そうですね、下半身も撮れたらなあ」
 残念そうな声になるのは仕方がない、だが、こういうのは。
 「その写真だがなあ」
 「掲示板にでもアップしませんか、最初にコスプレですっていっておけば」
 「ちょっと待て、もう少し調べてからにしよう」
 「慎重ですね」
 おまえが脳天気なんだと言いかけて、さてどうするかと佐伯は考えた。



 「いかんなあ、つい」
 あまり飲み過ぎるとよくないと言われているのに、続けて三杯目だ。
 酒よりも珈琲の量が増えると、カフェイン中毒じゃないかと周りから言われてしまうが、夜になれば、食後の一杯と思い、また飲んでしまうのだ。


 「佐伯さん、呼んでますよ」
 その日、いつもの時間に出社すると呼び出された、煙草を吸いたいなあと上司の独り言のような呟きに禁煙してたんじゃないんですかと佐伯は笑った。


 「おまえら、今、何の取材をしてるんだ」
 廊下へ出ると上司は自販機まで行き、珈琲を奢ってやると呟いた。
 「変質者がうろついていると通報があったぞ」
 「へ、なんです、それは」
 「警察から連絡があったんだよ、柴村が捕まってな、見逃してくれるらしいが、以後、気をつけろとな」
 「なっ、どういうことです」
 「柴村は変質者か、何かに間違われたみたいでな、子供がひどく怯えてな、まったく、面倒なことを」
 ちらりと自分に向けられた視線は責めているようだ、すみませんと謝るしかできななくて佐伯は一人になると電話をかけた。


 「すみません、先輩」
 今日はこれで何杯目の珈琲だと思いながら、佐伯は事情を聞いていた。
 子供の怯え方は、かなりひどかったらしい。
 「なんだって、おまえ、あれから覗いてたのか」
 「いや、庭からチラリと、もしかしたらと思って、ところが運が悪いことに、それを子供に見られて」
 なんてことだ、佐伯は内心ほっとした。
 「覗こうとしていたのを、子供に見つかったか、で」
 「子供は警報ブザーを持ってて」
 全てを話した柴村は、ほっとしたように顔を上にあげた、空を見上げて、こちらを見ずにすみませんと口にする言葉に元気がない。
 「警察の尋問って、結構、堪えました」
 「まあ、事件があったからだろう、子供もびっくりしただろうな」
 「そうなんですが、で、どうします」


 どうします、それは、こっちの台詞だと思いながら自分の机にもどった佐伯はノートパソコンを立ち上げた。
 柴村は写真をネットの掲示板にあげたらしいが、タイトルは人形と書いたらしい、人魚と書くのはまずいと思ったからというが。
 教えてもらったアドレスを除いても写真はない、削除したなんて言ってなかったぞと思い、仕方なくマウスでクリックしようとした、すると。


 削除されました、デリート、ソシテ、警告シマス。


 「なんだ、これは、おい、柴村」
 後輩の名前を呼び手招きした、そのとき、パソコンの画面が暗くなった。