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オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

特ダネは人魚、そりゃ、ガセだろうという佐伯の言葉

完結していませんがpixivで変な改行になっていて手直し、タイトル変更しました。



「おいおい、そりゃあ、ガセじゃないのか」
 折角の休みだっていうのに、佐伯は呆れた声を出したが、電話の向こうの相手、後輩はとんでもないと否定し、今すぐ、見てください、アドレスを送りますからと言葉を続けた。
 先輩の意見を聞きたいんです、それで取材するかどうか、決めませんか、いつになく真剣な口調に、まあ、それを見てからだと考えて佐伯は携帯をテーブルの上に置いた。
 程なくしてアドレスが届き、写真を見た瞬間、声を漏らした。 
 人魚です、というタイトルと同封されていた写真を見て何故と思ったのは無理もない、子供用のビニールプールから見えているのは明らかに魚のような尾ひれなのだ。
 銀髪、ウィッグなのか、だが、顔がよく見えない、もしかしてよくできたコスプレなのかと思い、折り返し、電話を入れた。
 「先輩、どうです」
 自慢げ、いや興奮気味の声に冷静になれと自分に言い聞かせながら、あれだけで判断しろというのか、この仕事を始めて何年だと文句がこぼれてしまった。
 すると、後輩は言葉を続けてきた、写真の投稿者と連絡を取り、話をしたというのだ、その結果、相手はネット、雑誌、できればテレビ局の人間の連絡を待っているという。


 「詳しい事はもったいぶって話そうしないんです、でも絶対にトクダネだっていうんですよ」


 特ダネか、シロウトが売り込むときには刈らずつけてくるお決まりの台詞だ、若い頃の自分は、それで何度、踊らされたことか。
 机の上のカレンダーと手帳を確認する、真っ白というか暇すぎるくらいなのが寂しいくらいだ。
 少し前から自分たちの仕事の傾向が変わってきた。
 芸能人の恋愛、不倫問題をとりあげたことにより、あまりにも下品すぎると週刊誌メディアは教育、学校関係者から反発を受けた、勿論、テレビのワイドショーもだ。
 素人がプロの芸人よりもおもしろいことをやったり、動画サイトで流すようになるとメディアだけでない、出版業界も変わってきた。
 廃業寸前の小さな本屋に同人誌というものが置かれて賑わいをみせるようになった、つまり、テレビや芸能界では当たり前と思っていたことが、通用しなくなってきたのだ。


 「先輩、今日の午後、会うことになっているんです、一緒に行きませんか」
 「あのなあ」
 「無理にとはいいません、でも、もし本当だったらどうします」
 その声と言葉に、佐伯の気持ちがぐらりと動いた。
 「行きますよね、佐伯先輩」
 見透かされているなと思いながら、ああと佐伯は返事をすると鞄を持って取材に出かけてきますと上司に声をかけた。



 待ち合わせ場所は喫茶店だった、普通の青年だなあと思ったが、話しているうちにカメラオタクということがわかり、佐伯は相手に尋ねた。
 「そのまえに、聞いてもいいかい、大事なことだから確認の意味も含めてだけど、これは盗撮だよね」
 青年は一瞬、真顔になり小さく頷いた。
 「せ、先輩」
 「最近は厳しくてね、テレビも雑誌もだ、それにこの写真でははっきりと確認できてないし」
 「で、でも、本物なんです」
 青年の声が小さくなった、だが、その表情は真剣だ。
 「本物って、どういう意味かな」
 佐伯の言葉に青年は、信じてくれないかもしれないけど、小声で呟いた。



 「先輩、本当だと思いますか」
 「自信なくなってきたって顔だな、芝崎」
 「だって、話せないって」
 「例えばだ、この人魚の格好をした人物は虐待を受けてコスプレをさせられていたら」
 「ええっ」
 あまりにも驚いた顔をするので、いや、海外だとそういう事件があっただろうと佐伯は言葉を続けた。
 「いや、そうと決まったわけじゃない、それに本人が好きでやってるなら、問題はない」
 「違っていたら、もし本当に無理矢理そういう格好をさせられていたとしたら、どうするんです」
 そうなったら、自分達の仕事ではない。
 「違うだろう、それは警察の管轄じゃないか」
 「先輩」
 写真でははっきりしたことはわからない、だが、あの青年ははっきりと本物だと断定している、間近で見たからか、それとも別の理由があるのか。
 「まあ、行ってみるか」
 だったら、さっきの青年にもう一度連絡をしようと佐伯は鞄の中から携帯を取り出した。


 一軒家だが、あまり大きくない、古い家、それも平屋というのも今時珍しい、しかも近所から離れている、青年の家は少し離れた場所だ、写真は二階から撮ったものらしい。
 それがだんだん好奇心を押さえることができずに、こっそりと盗撮したのだろう。


 「どうしますか、先輩」
 家の近くまで来たが、悩むのは当然だ、まさか玄関のチャイムを押して、お宅に人魚がいますか、取材をさせてくださいなんて言ったら、断られるのは目に見えている。
 そのとき、買い物袋を両手に下げた女性が二人の側を通り過ぎようとした、佐伯は思わず、すみませんと声をかけた。
 振り返った女性は不思議そうな顔をしたがすぐに背を向けて、家に向かおうとした。
 「道を聞きたいんですが」
 知りません、それが女の返事だった、そして急いでいるといわんばかりに玄関に向かっていった。
 その間、ほんの数秒だったかもしれない、あまりにも素っ気なく、呼び止める暇もなかった。


 二人は、暫し呆然とした。
 「先輩」
 拍子抜けしような後輩の声に、佐伯は情けない声を出すなと呟いた


 「よし、こうなったら直接交渉だ」
 佐伯は玄関へ向かって歩き出したが、直前まできて足を止めた。
 「おい、庭に誰かいるみたいだ」
 小声で囁き、手招きをすると、本当ですかと後輩の芝崎も足音をたてないように後ろについてくる。
 見ず知らずの家に不法侵入という事はわかっている、だからこっそりと覗く
のだ、もしかして庭にはビニールプールが、いや窓から家の中がみれるかもしれない。
 そのとき、二人の耳に奇妙な音、水音が聞こえた。