好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

逃げ込んだのは鋼の世界 田宮良子はキンブリーを脅す、脳みそを喰われたくなければと

後藤が近づいてくる、緊張しながら深呼吸をした、気持ちを落ちつける為に。
 でも、迷っている時間はないので田宮さんに言った。
 「戦おう」
 死にたくない、まだ生きていたい、そして今、ここで逃げようとしても後藤は追いかけてくる、絶対にだ。
 それは、おまえの意思だな、田宮さんの声が頭の中に響く、勿論と頷きながら、あたしはマルコーさんに声をかけた。
 家から出ないでくださいと、だが、そう言おうとして田村さんが止めた、後藤の相手は私がすると。
 突然、あたしの右手がぽろりと落ちた、続いて左足もだ。
 まるでスライムのような姿で田宮さんは白スーツの男に飛びかかった。
 「おまえの体を使わせて貰う」
 抵抗しようとする男に逆らうな、脳みそを喰われたくなければと言葉を続けて、田宮さんは、あたしを見た。
 「後藤の気配が今までと違う」
 片足だとうまく動けない、あたしはマルコーさんに頼んで窓の近くまで立たせて貰った。
  
 「誰だ、おまえ、いや、田宮良子、か」
 決して大きくはないが、後藤の声がかすかに聞こえる頭の中に、戦い始めたが、何故か、白スーツの男の動きがぎこちない。
 もしかして、男は田宮さんに抵抗しているのだろうか。
 慣れていないだけ、なのだろうか、攻撃をかわしているのだが、ぎりぎりだ。
 不安になる、もし彼女が殺されたら自分も後藤に殺される、あっというまにだ。
 いや、それだけではない、隣にいるマルコーさん、この人は関係ない、助けてくれた人だ、でも、後藤は。
 考えたくない、でも想像できる、どうすればいい頭の中で必死に考える。
 今までだって同じ寄生獣に出会って戦う事になっても切り抜けてきた。
 だが、それは田宮さんがいたからだ、同じ、寄生獣で同等に戦えるという自信があったからだ。


 「落ち着きなさい」
 マルコーさんの声にはっとした、悪いことばかり考えすぎていたことに気づいて自分を叱咤した。
 寄生獣達と戦うとき、田村さんはいたも落ち着いて冷静にと言っていた事を思い出した、焦っていると、それが自分にも伝わってきて判断を謝ってしまうかもしれない。
 だから、落ち着いて戦っている様子を見るようにと言われていたのだ。
 視線を窓の外に向ける、だが、次の瞬間、思わず声をあげてしまった、白スーツの男の右腕が切られた、いや、切り落とされたのだ。


 


 「どうした、突然、別の人間に乗り換えたので動けないのか」
 「そうかもしれない、男と女では体の構造も違うようだ」
 


 「今のうちに逃げてください、お願いです」
 あたしは隣にいるマルコーさんに声をかけた。
 助けてくれたのに、こんな事に巻き込んで、すみませんと謝る、少しでも時間を稼がなければ、この人が逃げる時間をなんとしたも稼がなければと思った。
 ほんの少しの沈黙の後、マルコーさんは言った。
 「難しいな、それに逃げたところで見逃してくれるとも思えない」
 マルコーさんの言葉に返事ができなかった。
 「ホムンクルスとも違うようだ」
 「あの男は体の中に仲間が五人いるんです」
 すると何か考え込むように、だが、とマルコーさんが呟いた。
 「君の中にいた彼女は今まで戦って勝った、いや、うまく、防いできた、つまり」
 何が言おうとしているのだろう、言葉が出てこない。
 (完璧ではない、弱点がないとは思えない)


 田宮良子は、この男の体を完全に乗っ取ってはいないのかもしれない、だが、人間の弱点は分かっている、心臓だ。
 心臓の動きを止めれば勝てる、そう思って狙うのだが、なかなかうまくいかない。
 やっと片腕を切り落とした、すぐに再生するかと思った、だが、そのままだ。
 どういうことだ、もしかして、自分は勝てないと思って諦めたのか思った。


 (本当に、そうか)


 不意に自分の中にいる仲間の一人が疑問を抱く。


 (何故、完全に男の脳を喰わない)


 田宮と寄生していた人間の女はどこだ、あの家の中にいる気配を感じる。
 動けないのか、いや、もしかすると機会を窺ういるのかもしれない。
 だが、距離がある、田宮良子があの女から離れたとしても長くは単独では動けない筈だ。
 (いや、できるのか?)
 疑問が頭の中に沸く。


 突然、田宮良子が地面に膝をついた、いや、呻き声をあげた。
 なんだ、どうした、もしかして、拒否反応かと思った。
 以前、人間に他の動物に寄生しようとして失敗した仲間を見たことを思い出した。
 理由は分からない、寄生しようとした相手の意思が強かったのか、それとも体に何らかの異変があったのか。
 見届けてやる、そう思ったとき、いきなり、田宮の残った腕が伸びて迫ってきた、いや、それだけではない。
 田宮の腕は自分が切り落とした腕を掴んでいる、どういうことだ、疑問を抱く、だが、答えを出すように田宮、白スーツの男は、手を自分の顔に。
 腕、掌が光った。
 なんだ、文字、数字、言葉、言語、頭の中だけではない、体の中にまで入ってくるのは痛み、いや、同時に別のモノも入ってくる。
 情報か、理解が、なんだ、これは、あまりにも大きい、いや、多すぎる情報、もしかして、この世界の。
 対処の方法がわからない、後藤はわずかにひるんだ。
 だが、このとき、一人の意識が消えた。
 五体の中の一人が、死んだ、のか。
 いや、違う、これは細胞の一つ欠片さえ残さず、完全に。
 消滅、したのか。


 「田宮良子おおおっっっ」
 怒りが爆発する。
 体勢を立て直せ、田宮ではない、家の中にいる本体、人間のあの女を殺せ、そうすれば田宮良子を殺すことができる。
 命令だ、自分の中の一人を体から外へと分離させ、命令する。
 (女を、あの人間を食い殺せ)


 自分の目では、はっきりと見る事ができない、だが、何かが向かってくる。
 マルコーは緊張した、左手をポケットの中に入れると手袋を取り出しはめる、自分の錬金術が効くのかわからない、だが、何もしなければ殺されるだろう。
 突然、耳元で声がした、それは隣にいる彼女ではない、寄生獣、田宮良子の声だ。