好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

子殺しに、そんな事は関係ない、は関係は女の仕返し、魔獣の復讐、そして王(男)は肉塊に

男は叫んだ、このままでは死んでしまう、体中の痛みだけではない、腕から流れる血が止まらないのだ。
 つい先ほど薬師から渡された薬を飲んだが、本当に効いているのかと疑ってしまう、腕の傷口が熱くて焼けるような痛みを感じるのだ。
 薬をくれ、自分の言葉に薬師は首を振った、先ほどの痛み止めと鎮痛剤を飲んで、わずかしか時間がたっていないので、他の薬との副作用が心配だ、しばらく待ってくださいと言われて男は叫んだ。
 「なんだ、役立たずがあっ」
 ところが薬師は顔色一つ変えず、壊疽が始まっている、右腕を切り落とさなければと冒険者の足元の大剣を拾い上げた。
 腕を出してくださいと言われて冒険者はわずかに首を振った、回復ポーションを出してくれと震える声で呟いたが、薬師は時間がありませんと平然とした口調でいうだけだ。
 次の瞬間、ごとり、地面に落ちる音がした、勇者の右腕が落ちたのだ、赤く血に染まった腕、だが、それは次第に不気味な青や緑の色に変わり、液状に変化して地面に吸い込まれていく。


 以前のような働きが期待できないという職員の言葉に男は納得できず片腕がなくなっただけだと叫んだ。
 だが、ギルド職員の顔は厳しい、いや、周りの冒険者達の視線もだ。
 「薬師のせいだ、俺の腕を切り落とした」
 「逆恨みです、あの魔物は上位種というだけでなく、毒と魔法も使います、放っておいたら全身に毒が回って数時間もたたないうちに死ぬ、それに魔物には子供がいた、規定をご存じでしょう」
 この時期、森の中での魔物討伐には気をつけて、子連れの場合は戦闘は避けることと言われていたが、男は魔物の持っている魔石を欲して戦闘を挑んだ。
 「仲間の負傷もひどい、復帰は正直なところ難しいでしょう、リーダーの責任だとは考えないんですか」
 男は顔を歪めた、確かに、言われたとおり、自分ミスかもしれない、だが、あのときは自分達ならできると仲間達も賛同したのだ。
 違反行為にはペナルティがあるが、自分達には稼ぎがある、それに上流貴族との繋がりもある、うまくいけばペナルティも少し軽くなる可能性があると楽観視していた。


 「何故、あの薬師だけが無事なんだ」
 「また、そのことですか、説明しましたよ、ガーディアンの石、魔物除けの石を所持しているんです」
 「聞いたことがないぞ、そんな石の話など」
 公にすることではありませんからねと職員は冷めた目で男を見ながら、ランク認定は取り下げ確実、腕は回復も復元しませんと言葉を続けた後、規約違反ですよと男を睨んだ。
 子連れを襲ったことで魔物たちの動きが怪しくなり、先日は森の入り口付近で子供が襲われそうになったんです、職員の言葉に男は黙り込んだ。
 「仲間も、貴方の事を恨んでいるのでは」
 「あ、あいつらだって乗り気だった」
 「ですが、薬師は止めたのでは、このことについては」
 「あの女は、今回、臨時に雇っただけだ」
 これ以上の会話は無駄ですという相手の態度と表情に男は黙り込んだ。


 あの薬師のせいだ、仲間たちも怪我をしていた、だが、リーダーの自分の回復が一番、優先されるべき事ではないのかと思ってしまう。
 それに石、魔物除けの石の話など今まで聞いたことがない、少なくとも、この国では、そんな石の話など。


 薬師の噂は瞬く間に広まった。
 いつも一人で行動し、森の奥深いところにも入って薬草を取ってくるのだが、魔物に襲われたことはないらしい。
 武器といえば採取の時の小刀一本だけだ。
 だが、最近になって魔物除けの石を持っているから、襲われないのだという噂が囁かれるようになった。
 噂を流したのは元、冒険者だ。


 「あの薬師は俺の腕を切り落としたんだ、回復ポーションを飲めば俺の腕は元通りになる筈だった」
 「しかしなあ、あんたを襲ったのは子連れの魔物、しかも上位クラスだろう、ポーションの効果が現れるまでに毒が回って死ぬ可能性もあったんじゃないか」
 「あの薬師は腕がいいということで雇ったんだ、なのに、まともな仕事をせず」
 「どうだかなあ」
 「それってやっかみ、逆恨みじゃねぇか」
 自分の言葉が信用されないことに元、冒険者は苛立ちを覚えた。


 回復ポーションで腕を元通りにと思ったが、駄目だった。
 どこの医者も首を振り、いや、それ以前にギルドから規約違反と冒険者の資格剥奪で相手にされないのだ。


 仕方ないと昔のコネを使い、男は城の高位貴族に話を持ちかけた。
 薬師が魔物除けの石を持っている、どんな魔物、高位、上奇種の魔物もそれがあれば近づかない。
 だが、そんな貴重なものを、ただの薬師が独り占めしていいわけがない、高貴な人間、貴族、王族が所持するべきではないかと。 
 貴族は男の言葉に、確かにと頷いた、そして、このことは王に進言しなければと頷いた。


 城に呼ばれた薬師は王と息子、数人の忠臣を前にしても臆することもなかった。
 魔物除けの不思議な石を持っているそうだが、それを見せてもらえないかという家臣の言葉に薬師は他人に見せるようなものではないときっぱりと言い切った。


 「まあ、たかが薬師のくせに」
 「立場というものを弁えていないと見える」
 「態度といい、いささか、生意気ではないか」
 「その石を見せてもらえないか」
 王の言葉に薬師は首を振り、見せられるものではございませんと頭を下げた。
 何故と王が尋ねると、石は自分の心臓に埋め込まれているからですと薬師は平然と答えた。
 「これは感謝の証です、魔法で心臓に埋め込んでくれました、石を欲する人間が出てきても奪われないようにとの配慮です」
 できれば、その石をと思っていたのだろう。


 「薬師よ、聞いてくれ」
 最近になって、自分だけではない息子や親族や森に出かけると森の中で魔獣に出会う事が増えたと王はわずかに顔を歪めた。
 ところが、先日、一人の騎士が亡くなったことにより、もしかしてと思った、今までの魔物たちの行動は見せかけであり、わざとではないかと。
 「魔獣は利口です、上位になるとわざと弱いふりをして相手を油断させようとします、遊ばれているのでしょう」
 その言葉に周りの貴族達は顔色を変え、叱責の言葉を薬師に浴びせた、国王直属の騎士を侮辱するのか、王は武人としても、王子たちもそこらの冒険者に対してひけはとらないと反論する声が上がったが、薬師は平然としていた。
 「遊ばれるか、何故、そう思う」
 「王ともなれば恨みを買う事もありましょう」
 「確かに、綺麗事だけではすまない事も多いからな、もし、そうなら、どんな恨みだと思う」
 薬師は顔を上げて子殺しなら、どうでしょうと王を見上げ、微笑んだ。 
 「子供を殺された母親の恨みというのは、いかがでしょう」
 「ふむ、確かにな、だが、私は色々な罪を犯しても、それは断じて」
 薬師の唇がわずかに歪んだ。
 「なかったといえますか、貴方ほどの方であれば公にできないこともありましょう」
 「なんだ、まるで、その言い方は」
 何か、知っているような口ぶりだと思い、女は薬師の顔を凝視した。


 「お忘れですか、私の顔」
 (おまえは私の子を殺そうとした、獣だから、人ではないから)
  王の頭の中に獣の方向が響いた。
 「ま、まさか、おまえは」
 女の顔がみるみると変貌し別人のように変わった、そして隣には大きな白い獣と子であろう小さな獣が。


 広間は血の海だ、王は手足を切断されて肉の塊となっていたが、死んではいなかった、ただ、長くはもたないだろうと自分でもわかっているようだ。
 自分は女ですと訳しは笑い、そして母親なんですよと呟いた。
 「私の子供を、あなたはどうしました」


 自分が捨てた女が復讐に来たのか、しかも殺そうとした魔獣まで、だが、後悔しても遅い。
 「これから狩りをはじめましょう、貴方の子、親族を、あなたはただ、見ているだけ」
 後悔しても遅い、男は唇を噛み締めた。
 きつく、ただ、きつく。