好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

彼女を見つけた、だが、これからだ

地下にいたのだ、父親と一緒に、彼女を見つけたことに、ほっと安堵した。
 しかし、彼女の姿を見て驚いた、髪が切られただけではない、顔は殴られてひどく腫れていた、そして火傷だ。
 宿に泊まらせようと思ったが、彼女は、それを強く拒否した、休んでいれば傷も治るし、体調も良くなるというのだ。
 怪我の理由を彼女は暴漢に襲われたのだという、詳しく理由を尋ねる事はしなかった(いや、聞けなかった)
 こんな事はパリでは珍しくはない、怪我だけですんだのは幸運だった、運が良かったのだという、殺されることだって珍しくない。
 恋愛が絡むと男女に関係なく残酷なことを平気でやるのだ、貴族という連中は自分は手を出さずに金を払って他人にやらせるのだ、汚い事は。
 思い出すと殺意が芽生える、殺してやりたいと思った、だが、それだけでは物足りない。
 色々考え、まずは見せ物小屋に戻ることにした。


 最初にやることは決まっていた、小屋の中でも古株のジプシー女に金を渡して薬を手に入れた。
 火傷、切り傷、打ち身によく効くものが欲しいと頼んだのだ、たっぷりと金を渡してだ。
 「大事な話だ」
 以前から考えていたと切り出し、ここを出ると私は静かに言った。
 ジプシー女は驚く様子もなく、そうかいと小さく頷いた、うすうすは察していたのかもしれない。
 「あの守銭奴が簡単におまえさんを手放すかねえ」
 意地の悪い笑みを浮かべる女の顔に無理だろうなと即答した。
 客寄せに私は格好の目玉だ、やめたいと言っても出て行くことを簡単には許しはしないだろう。
 「だから、相談している、いつまで、ここにいるつもりだ」
 「そうだねぇ、あの男、誤魔化しているよ」
 意味ありげな言葉と笑い、聞かなくてもわかる答えは一つしかない。
 「最近、娼館に行っているようだよ」
 「パリの女は、そんなにいいのか」
 「金のあるうちだけさ、全部、搾り取られたら捨てられるだけだよ」
 薬を盛られているんだろうねと囁くような小さな声に私は頷いた。
 「いずれ中毒になるのは見えてるよ」
 「なら、見切りをつけてもいいんじゃないか」
 返事のかわりの、その笑顔に私は満足した。


 「全く、なんてことだ、貴族の面汚しにもほどがある」
 その朝、ラウルは呼ばれて部屋に入ると驚いた。
 珍しくというか怒っているのだ、理由はなんだろうと思いながら兄さんと声をかけた。
 「ああ、ラウル、知っているか」
 貴族の名前を言われてラウルは一瞬何事かと思ったが、亡くなったと言われて思わず聞き返した。
 「フランチェスカ、あの令嬢がですか、どうして、病気」
 とんでもないと兄のフィリップは首を振った。
 「娼館で男と心中したそうだ」
 嘘でしょうと言いかけたラウルだが、兄の顔、表情に言葉を飲み込んだ。
 知らない間柄ではない、社交界の集まり、オペラや賭博場で何度か会ったこともある。
 会えば話もする間柄だった、その彼女が男と心中など信じられなかった。
 相手はいったい、どこの誰だ、彼女の周りにはいつも数人の取り巻きがいた。
 だが、心中した相手はパリの人間ではない、兄の言葉に驚いた。
 「旅回りの人間だ、ラウル」
 睨みつけるような視線と表情にラウルは何を言われるのかと思い、言葉を持った。
 「おまえは麻薬、阿片に手を出してはいないだろうな」
 すぐには返事ができなかった、だが、慌てて兄さんと否定した。
 「確かに貴族の中では嗜好品のように阿片に手を出している者もいます、友人の中にも」
 一度、ラウルも友人に勧められて手を出したことがあった。
 だが、数時間たつと目眩がして家に帰ると倒れてしまったのだ。
 医者の手当を受けた自分が阿片の事を話すと兄は殴りつけた。
 「いいか、二度とこんなことをするな、もし、今後同じようなことがあれば、弟ではない」
 普段の兄からは想像もできない姿に、あのときは驚いた。
 後に知ったのは兄の恋人が阿片で亡くなったという事実だ。



 良かった、元気になっている、あの日から数日が過ぎた、毛布、食料、飲み水を地下に運び、男は彼女の手当をした。
 「お父さんは」
 「演奏してくるって、少しでもお金を稼いだらパリを出るつて言ってるの」
 「君も、嫌になったかい」
 「パリって賑やかよね、大勢の人がいて、皆、楽しそうで」
 答えに、返事になっていないと思いながら男は無言のまま、薬を取り出すと女の顔に手を伸ばした。
 目を閉じた女の顔の傷は少しずつだが良くなっている、ほっとした。
 最初は緊張したのだ、女性の顔に触れることに。
 だが、傷に触れても嫌がらない、手当が終わるとありがとうと礼の言葉を何度もかけてくる。
 初めてのことだ。
 男の胸ポケットには三枚の金貨が入っている。
 手当をしたとき、薬代だと彼女から渡されたものだ、断るつもりだった。
 だが、自分の手をしっかりと握りしめ、受け取ってくれないと困る、そう言われると返すことなどできなかった。
 自分の手に女性が触れるなど初めてのことだ。
 この金貨は宝物だ。
 怪我か少しでもよくなったらなるべく、早くパリを離れて欲しいと男は思っていた。
 彼女に乱暴を働いた連中が、このまま何もしないという保証はないからだ。
 父親が警察に行ったらしいが、まともに取り合ってはもらえなかったらしい。
 問題は若造だ、彼女が怪我をしたことを知れば、何らかの行動を起こすかもしれない。
 彼女に乱暴をした犯人を見つけようとするかもしれない、そうなったら事態がややこしくなる可能性がある。
 貴族令嬢が暴漢達になんとかしてほしいと頼むだろう、あちらが動いてくれたらこちらとしては都合がいい。
 だが、彼女に危険が及ぶ可能性もあるのだ、まずは安全な場所に彼女を、そして。
 貴族の女をペットにするのもおもしろいね、ジプシー女の言葉を思い出した、だが、そんなことで満足できるだろうか。
 私は考えた。


 満足いく答えを出すまでに、少し時間がかかりそうだった。