好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

「愛を、食べ尽くした男」

あんなにかっこ良かったのに、どうして、そんなになっちゃったの。問いかけるような女の視線に、そんなにと言われた自分の体を見て男は頷きながら、仕方ないだろうと呟き、テーブルの上の食べ物を見ると手を伸ばした。
 肥満という言葉を気にしていたのは半年ほど前のことだ。
 当時、ぽっちゃりとなった自分の体型を付き合っていた女はかわいいと言ってくれたのだ。
 そうだ、最近はスマートでハンサム、スタイルもよくて顔もよい、そんな男は映画やテレビの中なら普通だ。
 それに比べて現実、リアルな世界では引きこもりや多少、根暗で変わった男のほうが以外とモテたりするものだと男は思っていた。
 現に今の自分には恋人もいる、少し前までふくよかだった。
 だが、現在の自分は靴紐を結ぶのも、下半身が多少、いや、窮屈さを感じてしまうくらいだ。
 そんな自分に嫌気がさして以前の女とは別れてしまった。
 だが、今、現在、自分の目の前にいる女は自分が食べる姿を黙って、いや、笑って見ているのだ。
 一緒にレストラン、ファミレスに行って、テーブルにたくさんの料理が並ぶと、食べて、食べてと自分に声をかけて勧めてくる。
 幸せだと男は思っていた、だが。


 「ねぇっ、別れない」


 その日は男の誕生日だった。
 女が予約した人気のあるレストランでのフルコースを食べた後、女はにっこりと笑って言った。
 何故と男は思った、自分は愛されていると思ったからだ。


 「だって、つまらないの、最近は食べるのも控えているみたいだし、健康に気を遣ってるの」
 女の言葉に男は先日、病院に行ったこと、医者に注意されたことを話した。
 体重増加もだが、目の前の女と付き合い初めて酒の味を覚えたのだ。 それもワイン、シャンパン、シャブリなどだ。
 すると女は良いじゃないと女は笑った。
 「テーブルの上から料理を食べて、皿が綺麗になっていく様を見ているのは楽しいの、その言葉に何か言おうとして男は女の顔を見た。
 嬉しい、楽しそうな笑顔だった、だが、今日は、その表情に、別のものが見えていた。
 あれっっ、男は不思議に思った、この女の顔を見たことがある、自分は知っていると思ったのだ。
 「君、少し、顔が変わったかい、もしかして」
 「そう整形したの、でも、元にね」
 戻したのよと小声で言われた瞬間、えっとなった。
 もしかして、まさかと思いながら、男は名前を呼んだ。
 「ええ、そうよ」
 頷いた女はにっこりと笑みを浮かべた。
 「もっと、たくさん食べてね、ほら、やめられないでしょう、だって、あなたの体は求めているんだもの、食べ物、まさか」


 男が口にしたのは自分が最初に捨てた女の名前だった。
 自分の食事だけでなく、付き合っている相手の食べ物まで手を出す姿を見ていると、このままでは駄目かなと思ってしまった。
 そして悩んだ末、自分からと思っていたとき、男から別れを告げられた、ほっとした。
 だが、しばらくするとやりきれない複雑な気持ちになってしまった。 ところが別れた後、男の姿を見たのだ。


 一生懸命に食べている姿を見て、女はたまらなくなった。
 付き合っているときは幸せだと思っていたのだ。
 だが、付き合いが長くなり、見かねて食べ過ぎだと注意すると気分を悪くし、男は不機嫌になる。
 そんな顔を見ると仕方ないと思った、我慢したのだ、自分は黙っていたらいいと思ったのだ。
 だが、不満はたまり、不安は大きくなる、太りすぎて、こんなのは体によくない、病気になったらどうするの。
 見たくない、それなら別れようと思ったとき男から別れを告げられた、ほっとした。
 だが、それと同時に男に対する感情が、最後に何か言ってしまいたい、だが、そう思ってもできなかった。


 だから決めたのだ、復讐することに。
 男の前に部津真の州がだて現れることにした、整形して。


 「食べること、やめられないでしょ、冷蔵庫の中のものを食べてるんじゃない、家の中でも、食べ尽くしているんでしょう」
 何故、そんなことを、まるで見てきたようにと男が聞く。
 「今、ネットで痩せる薬、流行っているの、でも凄く太った人にしか効かないって知らない」
 女はネットで名前の知られている有名人、芸能人、関係者の名前をいくつか挙げた。
 男は思い出し、頷いた、綺麗になった、若返ったと言われている、テレビやネットで見たことのある男女の姿を思い出した。
 だが、彼らは以前、とても、そうとても。
「だった・・・・・・」
 女の言葉は小さすぎて聞こえなかった、だが、男は思わず、漏らすように言った、皆が。
 太っていたと男は思い出した。
 「ええ、でもね、あの薬って副作用もあって、少し」
 なんだ、女の言葉を聞こうとして、男はテーブルの上の皿に手が伸びていることに気づいた。
 そこには何もない、空、食べたからだ【自分が】
 なのに、手が、求めている。
 「でも、副作用が、薬を使う人間は審査も厳しくて、でも、あなたは、そう」
 女が笑った、無理だったのかしらと。


 男は右手を失った、多分、いや、そう遠くないうちに左手も失うことになるだろう。
 ニュースを思い出した、綺麗に痩せた芸能人達は副作用は様々だ、だが、彼らは金がある、それを押さえることができる。
 しかし、自分にはそれが。


 「助けてあげる」
 女が笑った、その言葉に縋るしかない、だが、もし気が変わって嫌だと言われたら。
 「大丈夫よ、でも」
 でも、なんだ、その言葉の先を聞くこどかできない。
 失ったのは右腕だ、だが、もしかして、この先。
 男は不安に苛まされて声を上げた。


 「肥満も、ここまでくると色々と弊害も出てくるでしょう」
 ベッドの上で呼吸器をつけた患者を見ながら医者は言った。
 妻と名乗る女性が自分に頭を下げている、夫の食欲を見止められなかった自分を彼女は責めていた。
 奥さんのせいではありません、夫の身動きできないほどの体格と比べてつくの体は痩せすぎなんてものではない。
 「食べ尽くしなんて、世間では色々と」
 言いかけて、医者は言葉をきった。
 女性が泣いているとわかったからだ。
 


突発的に書いた短編、オリジナルです。