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オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

「息子の離婚、父親を訪ねてきたのは別れた嫁」1

 一人息子が離婚すると言い出したとき、反対しなかったのは予感めいたものがあったせいかもしれない。
 子供がいなかったのが幸いだと思いながらも政幸(まさゆき)は娘の嫁に申し訳ないという気持ちで一杯だった。
 だから、内緒で融通できるだけの金を渡したのだ、結婚当初は専業主婦で、正式に別れると聞いたときにはパート勤めをしていたという、息子は十分な金を渡したのだろうかと思ってしまうのは若い頃、何度か金を融通しにきたことがあったからだ。
 金銭面に関してはだらしないところは妻に似ていると思いながら離婚の際、ちゃんと話し合ったと聞く問題はないと返事が返ってきた。
 その言葉を素直に信じることはできなかったのは息子の顔だ、心配させたくないと思っているのか、笑っていたのだ。
 結婚してから息子の嫁は離れて暮らしている自分のことも気遣ってくれ、月に数回は様子を見に来てくれ、本当によくしてくれた。
 だから、自分が都合できるだけの金を用意して渡したのだ、勿論、これは息子には内緒だと言い含めてだ。
 


 離婚の原因は互いの性格の不一致だという、最初は納得し、それ以上、訊ねることはしなかった。
 だが、日がたつうちに本当にそうなのかという思いが大きくなってきた、一度、疑いだすと、その気持ちは、なかなか消えるものではないし、仏触することもできない。
 息子に直接聞いたところで本当のことを話すとは思えない、だから、金を払って興信所で調べてもらうことにしたのだが、その結果、分かった事実は不貞だ。
 それだけではない、相手の女性は妊娠しているという、だから、離婚を決意したのか、浮気だけならやり直すという道もあるだろうが、子供ができれば簡単にはいかないだろう。
 報告を聞いて溜息だ、だが、結婚後ではなく、それ以前から関係があったようですと言われて正幸は返事の代わりに頷くことしかかできなかった。
 事実を知ったところで、今更、どうしようもない。


 だが、ストレスだろうか、体調の異変の感じて病院に行と即座に診断が下されて入院するようにと言われたのは驚きだった。
 今時、癌など珍しくもない、だが、腫瘍が摘出するのに難しい場所にあると言われて悩んだ、保険も随分と昔に解約していたので治療費の問題もある。
 一人でのんびり過ごそうという、これからの未来の予想図が覆された。


 その日の夕方、看護婦から下着や雑誌の入った紙袋を手渡された政幸は驚いた、息子には自分が入院したことを知らせてはいないのだ。
 一体誰がと思ったのも不思議はない。


 「女性です、綺麗な方でしたよ」


 看護婦の言葉に心当たりがなく、詳しく訊ねようとして、ふと紙袋の中に携帯、スマホが入っていたことに気づいた。


 運ばれてきた夕食が喉を通らない、看護婦に心配され、少し腹具合がと言い訳めいた言葉と愛想笑いで誤魔化しながら病室をでると人気のないロビーで政幸はスマホの電源を入れた。
 着信音が鳴り、もしもしと女の声が聞こえてくる。
 まさかと思いながら名前を呼んだ。
 「美也さん」
 はいと返事がかえってくると安心すると同時に政幸は驚いた、どうして自分が入院していることを知っているのかと聞くと友人が教えてくれたのだという。


 「医療関係の看護婦、医者の知り合いもいるんです、どうして教えてくれなかったんです」


 「いや、息子とは別れたんだ、つまり」


 お義父さん、叱責するような、大きな声に政幸は驚いた。


 「明後日、そちらに行きます、必要なものはないですか」


 断ろうとしたが、最後には折れてしまった、最低限、困らないようにカードや保険証は持ってきていたが、それだけでは十分とはいえない。


 「本当にすまない」


 口から出てくる、それ以外の言葉しかないことに自分の情けなさと無力さを政幸は改めて感じた。



 息子と別れてから電話で話すことは何度か会ったが、顔を見るのは三ヶ月ぶりだった。
 病室に入ってきた彼女の姿を見て政幸は驚いた、別人かと思ったのだ。



 「着替えやタオル、歯ブラシ、コップにお茶も色々と持ってきたんです、お菓子も、和菓子、好きでしたよね、でも、食べ過ぎには気を付けてくださいね」
 「いや、すまない、それにしても驚いたよ」


 髪型や化粧だけで別人のようだ、最初、病室に入ってきたとき、まさか別れた息子の嫁だとは気づかず、いや、思えなかったのだ。


 「あの人、入院したこと知ってるんですか」


 いいやと政幸は首を振った後、離婚のことだがと、話を聞りだした。
 興信所に調べてもらったこと、浮気相手が妊娠したことを。
 「いいんです、お義父さんのせいじゃないです」


 浮気の事は気づかなかった自分も悪いんです、それに子供ができたんですから仕方ないと言われては返す言葉もない。


 「それよりも、これからのことです」


 政幸は首を振った、最低限の治療はする、だが、長い入院生活、延命治療などは考えていないと。



 翌日の夕方だ、先生からお話がと言われて政幸は驚いた。
 


 「今週中に病院を変わっていただきます、そこで手術を受けてもらいます」
 「手術、ですか、いや、それは」


 医者は咳払いをした。


 「実は、あなたの手術を是非、自分に執刀させてほしいと連絡がありましてね」


 それも海外の有名な医師団の一人ですと言われて正幸は驚いた。


 「いや、先生、私は独り身で、それに手術費用も」


 今の自分には現在の治療費だけで精一杯だ、だが、その言葉を医師は、やんわりと遮った。




 父親に知らせなくていいのかと聞かれ、祐二(ゆうじ)は首を振った。


 「生まれてからでいいんじゃないか、そのほうがオヤジだって孫の顔が見れて喜ぶと思うよ」


 そうだろうかと思いながらも男に従う事にした女は笑顔で頷いた、孫ができれば確かに嬉しいだろう、喜んで自分の事を受け入れてくれるかもしれない。
 前の奥さんと結婚したことを男は悔やみ、結婚は失敗だったと言ってる
 だから、男が既婚者だと知ったときも少し悩んだが、別れようとは思わなかったのだ、それに男は自分の好みだった。
 妻が出て行った家で新生活をというのは正直なところ、気分が良くなかったが、いずれ、マンションに引っ越そうと言われていたのだ。
 離婚が決まって一日でも早く引っ越しをと思ったが、自分の体調がよくない壊疽がひどくなり、引っ越しの予定は未定となっていた。


 「おかしいな」


 スマホをテーブルの上に置き、男は呟いた。


 「オヤジに連絡がつかないんだ、電話番号は変わっていないんだけど」
 「自宅に行ってみたら」
 「今、忙しくて、でも一度行ってみないとな」


 自分の離婚後、父親とは会っていないことに男は多少の後ろめたさを感じていた、子供を作らない事は最初から決めていたことだ、だから別れるとき、どう説明をすれば良いのかと迷っていた。
 良くも悪くも父親は真面目な性格だ、浮気が原因だと知れば、これからの生活で何か困った事があった場合、頼る事もできなくなる。
 だから性格の不一致、当たり障りない言葉で誤魔化したのだ。


 数日が過ぎた、昼前だから自宅にいるだろうかと思ったのだがチャイムを鳴らしても反応はない、そのとき、車の音がした、父親かと思ったが、出てきたのは二人の男女だ。


 「どちら様ですか」


 男の言葉に、父親を訪ねてきたのだと説明すると相手は不思議そうな顔になった。
 自分の父親は自宅を売っていたことに、このとき男は初めて気づいた。