オーディションを受けてみないというマネージャーの言葉にLIMAはすぐには返事ができなかった。
　映画、それともドラマだろうか。
　デビューしたばかりの頃、一度、映画に出たことがある。
　だが、その頃のことは思い出すとあまりいい気分ではない、初めてにしてはと皆は褒めてくれた。
　ネットでも普通でしょ、これからだよという意見があり、初めてなんだからと自分に言い聞かせた。
　だが、酷評する言葉のきつい人間はいる。
　それに同じくらいの時期にデビューした女性アイドルが出ていたのだが、彼女の方が評価されていたのだ。
　極めつけは、あの映画に使うなんて監督が可愛そうだ、断れない理由があったのではという意見をネットで見た時はへこんでしまった。
　自分のせいで映画の人気がと思ってしまった。
　「オーディションって、映画ですか」
　すると興味あるとマネージャーはにっこりと笑った。
　「舞台、ミュージカルだけど」
　無理、絶対、無理とLIMAは叫びたくなった。

　「同窓会の感じから連絡があったんだ、まあ、俺は不参加だが」
　村沢の言葉に頷く池上だったが、相手の顔が何か言いたげなことに気づいた。
　「覚えているか、さくら」
　一瞬、誰のことを言っているのかわからなかったが、木桜さんか池神が尋ねると、そうだと村沢は頷いた。
　「亡くなったらしい、それも随分と前に」
　返事に迷った無言のまま頷いた池神だが、理由はと尋ねようとする前に病気だと言われて驚いた。
　少し迷っていると付き合っていたんだろうと言われてしまい、今、何を聞かれたのかと池神はすぐには理解できなかった。
　「いや、彼女は君と付き合っていたんじゃ」
　「なんだ、それ」
　二人の男は互いの顔をまじまじと見ながら、無言になってしまった。　だが、それも長くは続かなかった。
　そういうことかと村沢が小さく、呟いた。
　病気のことは周りには内緒にしていたようだと、その言葉に池神は彼女の顔、姿を思い出そうとした。
　だが、随分と昔、学生時代の彼女の顔はおぼろげにしか思い出すことができない。
　「どんな病気だったんだ」
　「わからんが、治療しても駄目だ」
　「誰に聞いたんだ、それは」
　「手紙が来た、つい、この間」
　名前を言われても沢木には心当たりがなかった、いや、思い出せないといったほうがいいかもしれない。
　すると、クラスにいただろう、オタクのと言われてようやく思い出した。
　「そいつが、子供を引き取ったらしい」
　「どういうことだ、普通は親戚、血縁の」
　「彼女に頼まれたと書いてあったが、どう思う」
　どう、思う、何をだ、そう聞こうとして池神はやめた、だが、同時に疑問も感じた、
　「本当に彼女の子供なのか、妊娠、出産というのは簡単なことじゃないぞ、ましてや病気なら、父親だって」
　このとき、村沢もはっとした顔になった。
　「手紙を読んで思ったんだ、彼女の娘なら」
　「娘か、どちらにしても」
　それ以上は言葉が出てこず、池神は無言になった。

　「おまえの娘だが、悪くないと思う、だが」
　「仕事をやめようかと少し前に相談されたんだよ」
　それで、村沢は呟いた。
　「誰でもぶち当たるだろう、ああ、それと水着とかは撮らないからな、今は厳しいだろ、セクハラとか」
　「昔もだ、そういえば、確か、女優の」
　記憶力がいいんだなと村沢は珍しく笑いながら、また飲もうと言いながら席を立った

　「実は私、彼女にお金を借りていたんです、返そうとしたんですか何故か、連絡が取れなくて」
　「そうですか、それでわざわざ、こちらまで」
　眼鏡の奥から覗く視線、表情も、男は少し緊張しているようだ。
　こんな小さな事務所に尋ねてきたのが、美魔女といってもおかしくない長身の女性なら無理もない。
　「実はですね、彼女は」
　男の顔が緊張したように真面目な顔つきになった。

　「あ、あの、本当なんですか」
　「ええ、亡くなって、もう、ご本人は、もしかしたら、あなたが、ここを尋ねて来るかもしれないと仰っていたのですが」
　彼女が亡くなった、それも昨日、今日ではない、何年も前にと聞いて女は驚いた。
　「お貸ししたという、そのお金ですが、そのままにしてあなたが」
　女の表情が強ばった、だが、それは男もだ。
　「さん、その金は、あなたへの贈り物として受け取ってもらえないでしょうか」
　「でしたら、彼女の親族、親戚に」
　すると、お勧めしませんとはっきりとした口調で男は首を振った。
　「私も詳しい事は、ただ」
　男は言葉を切った。

　「あなたは、信用できるできる人間でしょうか」

　事務所を出た後、女は考えこんだ、信用できる、あの後に続く言葉が気になった。
　歩き出したが、ふと足を止めた、体を反転させ、来た道を足早に戻る。
　声をかけて事務所に入ると狭い室内、先ほど自分と話をしていた男が声を驚いたように電話で応対していた。
　入ってきた自分に気づいたのか、視線を向ける、その顔、表情にから何か、大変な事があったのかと思われた。
　話してください、彼女絡みのことを、女の言葉に男は頷き、行きましょう、病院へと声をかけた。

　「突然の出演依頼、すみません」
　頭を下げられて池神は、とんでもないと首を振った、バラエティ、若いアイドルの出る番組に自分のような人間がいいのかと思った。
　自分以外にどんな出演者がと思ったが、色々な職種の方々ですと言われ、ほっとした。
　収録が終わり、帰ろうとした池神だったが、声をかけられて振り返った。
　女優だろうか、自分と同じくらいの身長だが、顔立ちもスタイルも綺麗な女性だ。
　池神は思わず頭を下げた。