雑多な日々は徒然に

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 好きなものを呟いて書きます

恋愛マスター、英介

木桜

修二はスマホを握りしめて呻いた。

「おい、英介……お前、余計な知恵を智久に吹き込んだだろう」

電話の向こうで英介がクスクス笑っているのが聞こえる。

「何を根拠にそう言ってる?俺はただの恋愛マスターだぞ。悩める中年の恋を救う聖人みたいなもんだ」
「ふざけるな! なんだ深夜のデザートバイキングって……あいつ、妙に自信満々に誘ってきたぞ」
「ああ、まずかったか!?だがな、修二、お前が心配するようなことじゃないだろ。むしろ感謝されてもいいんだぞ。お前が健全な生活を送ってるからわからないかもしれないが、美也さんは掛け持ちバイトで忙しい。深夜くらいしか楽しめる時間がないんだよ」
「話をすり替えるなよ。美也は喜んでるし、別に怒っちゃいないが、お前が絡むと碌なことがない」

英介はにやりとした表情で、すぐさま反撃する。

「碌なことがない?違うな、お前が心配してるのは智久じゃない。自分の腹回りだろう?」
「腹だと?」
「気を付けろよ、最近ずいぶん出てきてるからな。年齢のせいだろうが、その腹が愛の邪魔をしていることをそろそろ認めるべきだ」

修二は無意識に腹に手を当てる。最近確かにぽっこりとしていることに気がついて青ざめる。

「そ、それとこれとは関係ないだろ!」
「大ありだよ。美也さんは甘いものが好きだがお前に気を遣って言えないだけだ。智久はそこを上手く突いたってわけだ。さすが俺の弟子だ」
「弟子だと!?」

修二は頭を抱えた。智久が英介の弟子など、悪夢でしかない。

「とにかく、美也さんが楽しめればそれでいいだろ?俺の計画に乗った智久を褒めてやれ。今まで恋愛経験が乏しいお前が、突然美女に膝枕までしてもらってるんだ。少しは譲歩しろ」

腹立たしいが一理あると修二は思った。だが、この男が言うと素直に頷けない。

「だいたい、智久もお前も俺に気を遣いすぎだ。俺がそんなに狭量に見えるか?」
「狭量とは言わないが、少なくとも腹回りは狭くない」
「しつこいぞ、英介!」
「だからこそ智久が気を遣ったんだろ。お前が普段食べないものを美也さんが遠慮してるから、気の毒だと。感謝しろ」
「わかったよ……お前の言う通りにしてやる。だが変な入れ知恵はやめろ。腹についてもな」
「了解したよ、修二先生。まあ、次はお前が頑張る番だ。お腹周りをすっきりさせて、彼女と二人で甘いものを食べてこい。俺の新刊、腹の肉が落ちるくらい笑える自信作だから、それで痩せるといい」

「お前の新刊なんてもう二度と読まん!」

叫んで通話を切った修二だったが、すぐさま鏡の前でシャツをめくって自分の腹を見てしまった。

確かに出ている。それも結構。

「……運動しないとな」

恋愛マスターの作戦が予想以上に効いていることに、修二は密かに恐れを抱いたのだった。