「クズ夫とその愛人にざまぁを。 虐げられた妻の選んだ相手は義父でした」
五話 「夜遅くなる理由」抜粋シーンです。
映画館を出たとき、遠くでパトカーのサイレンが鳴った。
正幸は、足を止めることなく歩きながら、
夜道の危険は、声をかけられることだけではないのだと、ふと思った。
終電、事故、予期しない出来事。
遅くなるっていうのは、それだけで心配なんだと改めて思った。
正幸は、帰宅した部屋で思い出していた。
行く前は息子の嫁と二人で映画を観に行った。
その事実に最初は身構えていた、間違った距離の取り方をしないかとか、周囲にどう見えるとか。
余計なことばかり考えていた。
だが――今、振り返ればただの映画鑑賞だ。
隣に座って、同じ作品を黙って眺めていただけだ。
それ以上の意味なんて、どこにもなかった。
むしろ、考えすぎ、構えていたのは自分の方だ。
里奈はいつも通りだった。
映画に集中して、余計な気負いも気配りもなく、ただ観て、ただ楽しんでいた。
……考えすぎていたのは自分だけか。
そう思うと、少しだけおかしくなった。
同じ時間を共有しただけなのに、なんであんなに肩に力を入れていたんだろう。
そんなふうに自分に苦笑しながら、正幸は静かに息をついた。
アルファポリス
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