まだ、タイトルは考えていない
その夜、一人で外食を済ませたエリックは店の外に出て自宅に帰ろうとしたが、知り合いの青年を見つけた。
夜間学校に通っていると知ったのは最近だ、親に育児放棄された彼は以前はかなりひどかったらしい。
親は食事も衣服も与えず、そんな彼を救ったのは美也だ。
医者の見合い合いでは高校時代から父親の介護をしていたらしく、彼の世話をしたらしい。
だが、この話にエリックは呆れた。
奏を引き取ったときに美也、彼女との付き合いは続けられないと言ったらしい。
ネットの婚活アプリで会ったというから、医者にしてみれば別れるのは当然の選択だったのかもしれない。
親戚の殆ど血の繋がりのない子供といっても18だ。
男やもめが引きとったところで、医者の仕事は忙しい筈だ。
彼女が奏のアパートに通い食事や世話をしたらしい。
(他人なのに、そこまでするか……)
あのとき世話をする彼女にも、少しの間だけでいい助けてほしいと言った医者にも腹が立った。
お人好しの女もだが、医師には常識があるのか。
だったら、奏でを引き取らなければよかったのだ
自分にも他人にも迷惑をかけずにすむのだから。
奏は賑やかな通りに向かっているが。その足取りは慣れているようだ、何度も来ているのかと思ってしまったか
周りには呼び込みの若い男性、女性が立っている、若いから、こうい場所に興味があても不思議はない。
どうする、声をかけるか。
奏の足が止まった。
「あれ、君、また来たの」
着物姿の女性がチラシを配っている、奏は声をかけられて少し話していた。
「わかった伝えておいてあげる、この先のファミレス、そこなら一人でいても大丈夫だから、でも遅くなったら」
「待ってるからって伝えてほしいんだ」
初対面ではなさそうだ、知り合いだろうか。
歩き出す渚の後ろ姿が何故か浮かれているように見えるのは気のせいだろうか。
このまま帰ろうと思いながらエリックの足は自然と追ってしまう。
自分でもわからなかつた。
夜遅い時間だが人はそこそこ入っている。
席に着いた奏は時間を気にしているようだ、待ち合わせか。
来ないのかもしれない、あと少しで今日が終わる、こんな時間まで良くないだろうと思ってエリックは奏に声かけて連れ帰ろうと考えた。
窓際の席に座っている彼は、熱心に外を見ている、待っているのかもしれない。
そのとき、彼が窓の向こうに手を振った。
店の中に入ってきたのは女性だ。
「美也ーっ」
奏でが女性の名前を呼んだ。
(彼女……美也か、本当に)
エリックは気づかれないように視線を送った。
たった三ヶ月、それが長いのか短いのかわからない。
髪が少し伸びていた、田舎に帰るときは短かった、少し伸びて、肩にかかっているが後ろでまとめていた。
化粧をしているのか、以前とは殆どノーメイクだったはずだ。
(綺麗になった……)
正直な気持ちだった。
「こんな時間まで、危ないじゃない、ここは……」
「心配しすぎだよ、世間の成人指定の年齢は18だよ」
二人に会話が途切れながらも聞こえてきた。
「先生に会わない」
奏の言葉に彼女は驚いたようだ。
「いや、それはね」
「先生は未練たらたらなんだ、見てれば分かる、美也に会ったって言ったら」
「えっっ、言ったの!?」
彼女は驚いたようだ。
「宅配のピザをとるからとか、家で晩ごはんを食べないか、たまには顔を見せろって俺を家に呼ぼうとしてさ、ばればれだよ、聞きだそうとしているのが」
奏で
の言葉に、そうなんだと美也は頷いた。
「一度、お元気ですかって挨拶をしたほうがいいかな」
「いや、挨拶だけなんて、それより、アパートは見つかった!?」
「まだ、今は友達に世話になってるけど、そろそろね」
「実は俺、先生の家で一緒に住もうと思っているんだ、少しでも金の負担を減らしたいし、今、先生が家賃とか全部、出してくれているけど」
「そうか、偉いわ、将来の事考えているのね」
(先生の……もね)
奏ではにやりと笑った。
「先生、ちゃんと食べてる」
「今朝はコンビニのおにぎりだったかな」
奏の言葉に、良くないと言いながら美也は窓の外を見た。
「あっっ、ゆずるちゃんだ」
窓の外から向かってくる女性に手を降る美也。
店に入ってきた女性は帰ろうかと美也に声をかけた。
「じゃあね、奏、遅いから気をつけてね」
「今度、会えない、昼間でも先生に」
「いやーっ、それはなんとなく」
気まずくないという顔の彼女に友人が声をかけた。
「先生!?、婚活アプリの人だよね、病院の先生でしょ、挨拶くらいしておいたら良いんじゃない、こっちに帰ってきたんだし、偶然、会ったとき、気まずくない」
「それは」
友人の言葉に奏は、ほらほらお友達も、そう言ってるんだしと背中を押す。
予想もしなかったのだろう。
「良かったら今から会いに行くのはどう、挨拶だけでなら、そんなに時間かからないでしょ、義理と人情は大事だよね、ねっ奏くん」
これは予想外の言葉だったらしい。
驚いた奏だが、スマホを取り出した。
「先生に連絡するよ」
医者が、修一が彼女と会う!?
エリックは、予想もしない流れに驚いた
「先生、起きてる!?」
突然、鳴ったスマホに修一は驚いた、こんな時間に奏からだ。
何かあったのか。
「家にいるよね、実は挨拶したいって言ってるんだけど」
挨拶、真夜中は過ぎているぞ、修一は驚いた。
「仕事が終わったばかりなんだ、美也」
返事はない、多分、驚いているんだろうな先生はとかなでは思った。
「先生、聞いてるーっ、あれっっ、通話、切れたか?」
(ミヤ、ミ、美也、彼女が……)
修一のスマホを持つ手から力が一瞬、抜けた。
せんせーいと呼びかける声に修一は慌てた。
「あっ、やっぱり遅いし、やめようか、こんな時間だし、美也も遠慮してるし」
「来るのか、家に」
「やっぱり駄目だよね、先生は明日も仕事だ、遅いから、なんなら電話で話す、スマホは持っていないから美也、今なら俺のを使えば」
修一は迷った。
「多分、街で会っても先生、美也とはわからないと思う、変わったからね、多分、街で先生に気づいても、美也からは……」
声をかけないかも、奏の言葉には、そんな空気が感じられた。
彼女の性格なら、あり得るかもしれない。
奏でを引き取ったとき、医者の仕事は忙しかった。
婚活アプリで会ったとはいえ、付き合いを続けるのは無理かもしれない。
だから、付き合いをなかったことにしようと言い出したのは自分からだ。
街で、もし会ったとしても彼女は自分に声をかけることはない。
それが普通なのかもしれない。
未練を自分は引きずっていて、だが、彼女は少しも気にかけていないのか!?
そんな人ではないはずだ。
赤の他人の奏の面倒をみてくれて色々と世話してくれた。
作家に言われた言葉が忘れられない。
「赤の他人に甘えすぎではないか、仕事ばかりで世間の常識がなさすぎる」と
「奏、彼女に来てほしいと伝えてくれ」
「んーっ、でも終電、乗り遅れたら大変だから、やめておこう、先生」
「おい、待て、それなら、私が」
(会いに行くから)
あっっ、奏が声をあけた、どうしたと修一が声をかける。
「雨だ、まずい、降ってきた、俺、傘、ないし」
そんなもの、コンビニで買えばいいだろうといいだろう、だが、修一の言葉を待たずに奏は続けた。
「今日はアパートに帰るよ、美也も友達が迎えに来てるし、一緒に帰るって」
「おい、待てっっ」
返事は届かない無情にもスマホは切れてしまった。
「未練たらたらじゃないか、先生」
奏は空を見上げた、月が綺麗だった、雨が降る気配はない。
この様子を離れたところから見ていたのはエリックだ。
もしかしたら、奏が二人を合わせるかもしれないと思ったのだ。
だが、自分の予想は外れたようだ。
ほっとする自分がいた。
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