好きなモノ、書きたいもの、見たいもの、舞台映画、役者とか

オリジナル、二次の小説 舞台、役者 すきなもの呟いて書きます

過去の自分を後悔した男、息子に負けたのだ

 子供が生まれた時、女は喜んだ、初めての妊娠、子供の性別を聞きたかったが、それは楽しみにの為に我慢した。
 生まれてくるのを心待ちにして、夫も喜んでくれる筈だと思っていた。
 だが、生まれてきた子供は一年、二年たっても、うまく言葉が話せない、医者に診せると、軽い障害があるという。
 これには母親である彼女よりも女よりも夫の方が驚きショックを受けた。
 「俺の息子が障害を持っているなんて」
 信じられない、もしかして、自分の子供ではないかもしれない、そんなことさえ思ってしまう、最後には、おまえ浮気したんだろうと妻を責めた。
 エリート社員、社長の右腕と噂され、プライドもあった男はショックも大きかったのだろう。
 息子が障害を持って生まれたという事実がどうしても受け入れられない。
 入社して実績を伸ばして、周りから認められて結婚した、これからというときに自分の人生はどうなってしまうんだと男は悲観した。
 だが、そんな自分の気持ちなど妻は気づかないのか、息子にかかりきりだ、障害があっても普通に生活している人はいると言って息子の世話、子育てを始めた。
 役所に行き、支援センターなどに息子を連れて行くのだ、前向きなのはいい、だが、息子のことばかりではないか。
 正直、夫の自分のことも気遣ってくれてはいいのではないだろうかと不満を抱いてしまった。
 最初は小さな不満、だが、少しずつ心の中で大きく膨らんでいく。
 息子の障害は自分に問題があるわけではない、では、妻に原因が、もしかして、浮気をしていないかと男は妻に問いかけた。
 だが、妻は笑うだけだ、あまりにも馬鹿馬鹿しいと言いたげに、そして相談があるのと夫を見た。
 塾に行かせたい、その言葉に夫は驚いた、今だって学校の授業で大変なのに何を考えているんだ。
 負の感情が大きくなる、以前、学校から連絡を受け、呼び出されたことを思いだした、あのときのことは恥ずかしさというよりも腹がたった。
 だから以後、もし呼び出されることがあったら、君が言ってくれと妻に任せた。
 「今、大きなプロジェクトもあるし、忙しいんだ」
 自分の言葉に妻の顔は一瞬強ばったが、わかったわと頷いただけだ。
 仕事が忙しい、この時の男にとって、その言葉は救いだった、逃げているという気持ちはなかった、頷く妻の姿見て安堵する。
 ほどなくして、子供の事は妻に任せてしまうという事態になるのに時間はかからなかった。
 


 「顔色、よくないですね、大丈夫ですか」 
 部下の気遣ってくれる言葉に男は大丈夫と答えたが、嘘だ、息子の事を考えていたからだ、妻は浮気したのではないかと思ってしまう、だから子供に障害があるのだ。
 探偵を雇って調べたら答えはすぐに出るだろう、だが、本当に浮気をしていたなら、自分は冷静でいられるだろうかと考えた。
 結婚したときは好きだと思っていた妻の存在は息子を生んだこともあって今では重荷のような存在になっていた。
 いや、人生において不要なものとさえ思ってしまう、一から結婚する前からやり直したいとさえ思ってしまう。
 ふと、離婚という文字が浮かんだ。
 もし、自分が切り出したら妻は、どんな反応をするだろう。
 養育費を十分すぎるぐらい払うことにすればどうだろう、今後、息子に、いや妻にも関わりを持たないということにすればどうだ。
 そんなことを考えてしまう、だが、自分が一人になる、息子に、妻に今後関わらないということは悩むこともなくなるということだ、そう考えると離婚は決して悪い選択ではない。
 そんな未来にすこしばかり、心が軽くなった気がした。


 夕食の後、大事な話があると切り出すと妻は別れたいのと聞いてきた、あなたの態度を見ていたらわかるわよ、子供が、妻の自分も負担なんでしょうと言われてしまった。
 察していたのだろうか、表情には出さずに養育費は払うと静かに言った、ところが、即答でいらない、必要ないという答えが返ってきた。
 息子のこと、自分のことも愛していない、そんな人から、お金なんていらないわと言われた瞬間、内心、むっとした。
 結婚してからずっと専業主婦の彼女に金があるとは思えない。
 すると、以前、復職したいって忘れたのという返事に男は驚いた。
 そのために準備してたと言われて言葉に詰まる、いや、返事ができなかった。
 多分、いや、離婚には簡単には応じないだろうと思っていただけに妻の返事はあまりにも予想外だったのだ。
 だが、はっきりしているのは妻と子供から開放されるということだ。
 これで新しく人生をやり直すことができると思ってしまった。
 


 数年が過ぎた、男は再婚して家庭を持った、男の子が産まれたが、普通に育っている、障害などない。
 やはり問題は妻にあったのだ、自分は悪くないと思うと、別れたのは正解だったと思えた。
 だが、ふとした時に妻だった女と息子は、今、どんな生活を送っているのだろうかと思ってしまう。


 その日は食堂ではなく、会社近くのカフェでランチを取っていたときだ、近くの席に座っていた女性グループの会話が耳に入ってきた。
 「ねぇ、あの人、間違いないわよ」
 「本人よ、以前インタヴュー誌に載ってたの」
 「見た目、普通の人って感じね」
 「セレブがいつもブランドを着てると思っているの、凄い人よ、普段はね」
 店の奥でランチを食べている一人の女性のことを言っているようだと男は、ちらりと視線を向けた(まさか)
 似ている、いいや、別人だ、こんなところに彼女がいるわけがない、食事をすませた女は立ち上がる、自分のテーブルのすぐそばを取りすぎる横顔が見えた。


 店を出た女の後ろ姿を追いかけ、男は声をかけようとした、そのときだ、気配を感じて振り返ると大柄な男性が二人、自分の前を遮るように立ちはだかった。
 そのとき、振り返った女性が、こちらを見て笑った、その笑顔に男はどきりとして思わず声を名前を呼んだ。
 不思議そうな顔で自分を見る女性に思わず声をかけた、だが、返事はない。
 しばらくの沈黙の後、女は軽く会釈をした、ただ、それだけだった。


 別れた妻だ、だが、今更、会ってどうする、しかし気になって、妻の実家に電話して連絡先を聞こうとした、ところが電話は繋がらない、そうだ、元妻の両親は結婚当初から体調が良くなかった、亡くなっていたとしても不思議はない。
 諦めて忘れようかと思ったが、気になってしまう、こんな時はネットだ、もしかしてブログやインスタなどをやっているかもしれないと思ったが、見つけることはできなかった。


  そんなときだ、自宅を二人の男女が訪ねてきた、顧問弁護士だと紹介されて一体、自分に何の用がと思ってしまった。
  
 別れた奥様にお会いになりましたねと聞かれて、やはり、元妻だったと男は、ほっとした。
 偶然、見かけて声をかけたのですと男は当たり障りのない言葉を口にした。
 連絡を取ろうとなさいましたね、今はない実家に電話ー、ネットでも調べようとしましたね、言葉遣いは丁寧だ、だが、その声音はどこか冷たい。
 責められているような視線を受けて男は焦りと同時に苛立ちも感じた、離婚したとはいえ結婚していたのだ。
 「正式に離婚されたのです、他人でしょう、何故です」
 妻のこともだが、自分の息子のことが気になったのです、するとその言葉を女が遮った。
 「あなたの息子ではありません、ムッシューの子供です」
 「彼女は再婚したんですか、外国人ですか」
 男の質問に二人は無言だった、ただ、小さく頷いただけだ。 
 「母親である彼女の努力もあるでしょうが、ムッシューのご子息は」
 信じられなかった、だが、普通ではない人間が突出した才能を持っていることはでとはある、だが、信じられなかった。  
 (息子が天才、まさか、どんな才能が)
 「息子には障害があって」
 すると、男女は障害と言う言葉にまさかといいたげな怪訝な表情になった。
 「まれにあるんですよ、生まれたときに一見、障害に見えてしまうような兆候が」



 離婚の話が出てきたとき驚いたのは、まだ先の事になると思ったからだ、別れた夫はプライドの高く世間体を気にするタイプだから簡単にはうまくいかないのではと思っていたのだ。
 きっぱりと後腐れなく別れたかったし、自分の仕事だけで大丈夫だと思っていたからだ、それに友人たちも助けてくれる。
 子供の障害の事について、ちゃんとした検査をしたほうがいいと助言をしてくれた友人には感謝だ。
 日本では障害者といっても細かい部分まではわからないこともあるらしい、だから海外の病院や専門の医者、施設にと言われた時は驚いた。
 その結果、子供の障害は、医者やアドバイザーから診断の結果を聞かされた時は驚き、呆れ、そして笑いたくなった。
 胎児の時の記憶が関係していますね、父親が好きではなかったんでしょうと医者に言われて妊娠していたときの夫婦関係を思い出した、確かに良好とはいえなかった。
 妊娠して普通の生活ができない自分を夫は怠けているとか、醜い腹、そんな体で、よく人前にと言われたこともあった。
 胎児の記憶というのは、この現代でも解明されていない、不明なところがあるのです、もしかしたら、お子さんは胎児の頃に。
 医者の言葉を聞きながら、ああ、そうなんですか、彼女は静かに頷いた。



 妻は再婚していた外国人とだ、知らなかった、生活はうまくいっているようだ。
 それに比べて、今の自分は会社の経営がうまくいっていないことを感じていた、吸収合併されるのではないかという話に社内は不安な空気が漂い始めた頃だ。
 ある会社が解雇される社員を受け入れるという話が持ち上がった。


 何故、自分が新会社で働く事ができないのか、男が不満を抱いたのは無理もない、自分は平社員ではない、役職についているのだ、多少なりとも有利なはずだと思っていた。
 理由を聞くと人事部の人間は困った顔であちらから言われたことを自分は伝えただけだという。
 だが、納得できないといわんばかりの男の態度に、それなら、直接、向こうの人間と話して見てはと言われてしまった。


 数日後の会見で男は驚いた。
 新会社の社長は自分の息子だった、子供と行ってもいい年齢だ、だが、海外では未成年、十代の人間が企業を、会社を立ち上げることなど珍しくないのだという。
 それだけではない、サポートする三人の人間は海外メディアでも顔こそ出さない、だが。
 「彼ら僕の腹心です、日本に進出することに賛同してくれました、いいか、死ぬまで」
 三人の男女が深々と頭を下げる。
 「Sir」
 「YES」
 「勿論」


 「息子の会社に父親がなんて外聞が悪いでしょう、それに別れてから一度も会っていないというし」
 わかるでしょうと人事の人間から言われて何も言えなくなった、いや、言葉が出てこなかったといったほうがいいかもしれない。
 今更だが、男は今更のように過去の自分を後悔した。